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- 木蓮夜話 - D


―待っていたのは…私? それとも…-


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「隊長の“想い”か…。岩瀬、何か思い当たることがあるのか?」
橋爪からの質問に、ゆるく首を振る岩瀬。
岩瀬に解らない事が、橋爪達に解るはずもなく…
三人は、ベットの隣で黙り込んだ―

そんな中。加藤がポツリと呟いた。

「お姫様は、何を思い残したんでしょうね…」
「「え?」」
「いえ…。このお姫様は何を思い残して、この世に残ったんでしょうか…?それが解れば、解決の糸口になるかも…」
「…!!」
「そうですよね!思い残した事があるから、この世に留まっているんでしょうし…」
「私はもう一度大木さんに電話をしてきます。」
「加藤!宜しく…」

岩瀬の必死の願いに、薄く微笑んで加藤はメディカルルームを後にする。
そんな加藤の後姿を見送り、ポツリと橋爪が呟く

「…解るといいですね…」

岩瀬はまだ、眠りにつく石川を見下ろし。

「はい…」とだけ答えた―



   **  **  **  **



それから暫くして、加藤がメディカルルームへと戻ってきた―
一つの真実を手にして…

「加藤!どうだった?」
「えぇ…。収穫はあったと…」
「本当か!?」
「はい。大木家の言い伝えなどを、もう一度確認したのですが…。どうやら、大木家の初代は終生独身だったと…。」
「…それは、亡くなった姫の事を想って…?」
「はい。そのようですね…。で、初代の妹さんの子供を養子にして大木家を存続させたと。 そして、こういい残し
 たそうです…」
「「?」」
「…『もし、お守り様に会うことがあれば、伝えて欲しい…いつでも。いつまでも。待っているから…』と…」
「…それは…!」
「えぇ。凄いですよね…。本当に伝えれるとは思えないのに… でも、それをどうしても、お姫様に伝えたかったん
 でしょうね…」
「で、今に至る。と…?」
「はい。代々、言い伝えられてきたそうですが…。残念ながら、『お守り様』に伝えられる事はなかった様ですね…」
「…だったら、その初代の言葉を、お姫様に伝えれば、解決できるのか!?」
「…確証はありませんが…可能性は高いかと…」
「でも…一体どうやって伝えるのですか?肝心のお姫様を見る事も、話す事も出来ないのに…」
「………」

解決の糸口が見えても、如何することも出来なくて―
岩瀬と橋爪・加藤の三人は石川へと目を移した。

「石川さん…どうすれば…」

そんな岩瀬の言葉に反応するように、ベットで横たわる石川の目じりから一筋の涙が流れ落ちる―

「…悠さん…!!」
岩瀬は思わず、石川の頬へと手を伸ばし、流れ落ちる涙を拭う。

「岩瀬!!」
「補佐官!!」
そして、二人の緊迫した声を手放す意識の片隅で聞き取り…

『あ!…触れてはいけないと…でも…悠さん…これで貴方に会えますか…?』

倒れる間際に浮かんだモノは―
輝くように笑う石川の笑顔であった。



   ** ** **



石川の言葉に驚きを隠せない静音は… 

「…そんなキレイ事…!」
「キレイ事じゃない!実際、貴女は『あの人』を想って、待っていたんでしょう!?だから…」
「だから?こんなに待っても来ないのに?まだ、待てと言うの?」
「それは…!」

石川は、静音の言葉に反論できない。
そんな石川の様子を見て、勝ち誇ったように静音は哂う―

「ね?だから…一緒に行こう?」
「なっ!!」

静音は石川の手を取り、ゆっくりと咲き誇る木蓮へと歩き出す。
石川は本能的に『木蓮は危険』だと察する。

『あの木蓮の所まで行くと…戻れない…!基寿…!!』

そして繋がれた手を離そうと、もがくが ― 静音の手はびくともしない…

「無駄よ…。貴方はもう一人の私なのだから…」



   **  **  **  **



石川の抵抗をあざ笑うかのように、静音の歩くスピードは衰えず。
木蓮が目の前に迫った来たその時―!


「悠さん!!」
「基寿!?」
「悠さんを離せ!!」

突如。目の前に現れた岩瀬は、石川の手を握っている静音の手を振りほどき―
数時間ぶりに会えた恋人を抱きしめた。

「悠さん…!無事でよかった…!!」
「基寿…?一体どうやって…?」
「悠さんに触るとコチラへ…早く来れなくてゴメンなさい…」
「いや…有り難う…基寿…」

石川はまだ、目の前の出来事が信じられないが―
でも、実際に岩瀬の腕の中にいる自分に安心した。

『これでもう、大丈夫だ…!』

理由のない核心が石川の中に生まれる ― そして

もう一人、目の前の出来事を信じられない人物がいた。
静音は突如現れた岩瀬をキッと睨みつけ―

「一体、どうやって…!?」
「それは貴女のお陰ですよ…お姫様。」
「なっ!?」
「貴女は最初から悠さんと俺を狙っていたんでしょう?だから、コッチへ来れたんですよ…」
「そんな…まだ、お前を呼んだわけじゃない!!」
「そうですね…。貴女に呼ばれて来たんじゃないですから。俺は悠さんに呼ばれたから、来たんです。」
「えっ?」
「貴女は最初に悠さんを。そして次に俺を取り込もうとしていたんですよね…?」
「…!!」
「……」

岩瀬の言葉に、石川は驚きを隠せず…
静音は黙ったままだ。
そんな静音を見据えて、岩瀬は。

「俺は貴女を許せません…」
「基寿!」
「自分が悲しいからって、他人を巻き込むのは迷惑です。だから、待ち人は来ないんじゃないですか?」
「基寿!!」
「!!!」

岩瀬の言葉は何処までも苛烈だ。
それだけ怒っている、という事なのだろうが…
岩瀬の気持ちも痛いほど解るが…静音の気持ちも解る石川には、辛い。
そんな、辛そうな表情の石川を優しい目で見下ろした岩瀬は、幾分和らいだ表情で静音を見る。
そして―

「貴女がそんなだから、待ち人が近くに居ても解らないんですよ」
「えっ!?」
「!?」
「俺は貴女へ。という伝言を聞いてきました…貴女が数百年待っている人物からです。」
「「!!」」
「『いつでも。いつまでも。待っているから…』」
「……」
「そして、もう一つ。その人は生涯独身で、あの木蓮の樹を守り続けたんです…この意味が貴女に解りますか?」
「そう…なのか…?」
「はい。今も木蓮の樹を守っている大木家に伝わっていました」

岩瀬の報告に石川は驚く。そして、静音も。

「そんな…そんな…!待っていたのは私だけではなかったというの…?」
「静音さん…」
「だって…!私の前には現れてくれなかった…!!」
「それは…」

言葉を詰まらせる石川に変わって、岩瀬が…

「それは、貴女が囚われ過ぎたからですよ…。あの『木蓮の樹』に…」
「そんな…!では、今も直ぐ近くに…!?」
「きっと。いると思いますよ…?」
「えっ?」

岩瀬が言い終えると同時に、一陣の風が吹きぬける。
そして、辺りを木蓮の香りが満たし―
樹の下には、柔らかく微笑む一人の男性が。



   **  **  **  **



「静音さま…」

優しく自分を呼ぶ、その声は。
紛れもなく、待っていた人物の物で…
ゆっくりと振り向いた静音は、声もなく涙を流して立ち尽くす…
そんな静音にもう一度、男は優しく呼びかけ―

「静音さま…待っておりました。」
「…あなた…!!」

やっと声が出た静音は、樹の下で自分を待つ男の下へと駆け寄った―
そして。
数百年を経て再会した恋人達は熱い抱擁を交わす。
言葉にはならない思いを抱いて―


そんな二人を見て、石川と岩瀬は…

「よかったな…」
岩瀬の腕の中で石川が優しく微笑んだ。

「はい…本当に…」
岩瀬も優しく微笑む。そして―

二人の意識は薄れはじめる…

最後に見たのは、樹の下の恋人達が嬉しそうに笑っている所だった―
そして一言。


― ご免なさい…ありがとう ―








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