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- 木蓮夜話 - C
― 貴方は来ないの? ―
** ** ** ** ** ** 石川は女の言った言葉に驚いた。 「え?…」 「貴方も私と同じだもの…だから、ココで一緒に待ちましょう?あの人が来るのを…」 「俺が貴女と同じ…?」 「そう…貴方も私と同じ…」 「…何処が…?俺は…貴女とは違う…!!」 石川の否定に小首をかしげ女は不思議そうに石川を見る… 「貴方も私と同じだから、ココにいるのでしょう…?」 「…え?…貴女が俺をココに連れてきたんじゃ…?」 石川の言葉に女は暗く笑う― クスクスと。 「違うわよ…?貴方が私と同じ“想い”を抱いているから、一緒に居るの…」 いつの間にか女は石川に手が届くほど近づいていた。 そっと、伸ばされた手が石川の頬に触れ― 「貴方はあの人と一緒に居たいだけなんでしょう?」 「……」 「只、一緒に居たいだけ。身分も何も関係なく― 違う…?」 「……」 「だから…貴方は私。私は貴方。一緒だね…」 「違う…」 「…何が…?」 「違う違う違う!!俺は…俺は基寿と『只、一緒にいたいだけ』じゃない!!」 「……」 「俺は…基寿と『一緒に歩きたい』んだ…!!」 「…何が違うの…?」 「貴女は『あの人』と只、一緒に居たいだけ。なんだろう…?」 「そうよ…一緒に居たいだけなの…」 女はウットリとした表情で、石川の頬をなでる。 石川は、そんな女の手を払いのけ。 「俺は『一緒に居るだけ』なんかじゃ物足りない!!同じ物を見て。同じ事を感じて… そして一緒に歳を取っていきたい…!だから、『只、一緒にいたい』貴女とは違うんだ!!」 石川の言葉に女は瞠目し― そして、怒りに満ちた瞳で石川を捉えた… ** ** ** ** 大きな事件もなく。 無事に午前中を過ごした岩瀬は。 昼休憩を利用して、再びメディカルルームへと急ぐ… 「Dr!悠さんは?」 「特に変わりはありません。」 息せき切って、入ってきた岩瀬に橋爪は、なんだか申し訳なさそうに答えた。 岩瀬は橋爪にも気を使わせている事に気付き― 「ゴメン。Dr…」 「いえ…私の方こそ、何の役にも立てず…」 「いや…Drが居てくれるお陰で、なんとか仕事に集中できるし…」 「そうですか…」 自然と二人の視線は眠る石川へと注がれる。 「…本当に触ったらいけないのかな…?」 「岩瀬?」 「こんなに近くに居るのに…。直ぐそこに、悠さんが眠ってるのに…手も握れないって…」 岩瀬の悲痛な告白に橋爪は柳眉を顰めた。 そして… 「…もう少しの辛抱ですよ…きっと…」 「…ゴメン…Dr…」 項垂れる岩瀬の背中をポンポンと叩き、橋爪は。 気休めにしか聞こえないであろう言葉を言った… 自分にも言い聞かせるように― 二人して、沈んでいると― 岩瀬のインカムに内線が入る。 「はい。岩瀬です」 「西脇だ。加藤が戻ってきた。今、メディカルルームへ行っている…」 「え…?加藤が…?」 岩瀬の驚く声と共に。 「只今、戻りました。」 出掛けていた加藤が戻ってきた。 ** ** ** ** 「お待たせしました。」 「加藤!!何かいい情報でも?」 意気込む岩瀬にゆるく首を振り― 「すみません…特にコレと言って目新しい物は…」 加藤はすまなさそうに謝る。 期待をしていただけに、岩瀬と橋爪の落胆は大きい… そんな二人を見て、更に申し訳ないカンジの加藤だが。 「少し、あの木蓮について調べてきました。コレがそうです。」 一枚のコピーを差し出す。 どうやら、新聞の記事のようで… 受け取った岩瀬は、乗っている写真に目を奪われる…。 そこには、先日見た白木蓮が写っていた。 下の記事には― ======================================== ―樹齢数百年になる木蓮!― この樹を管理しているのは。大木武人さん(56)代々受け継がれてきた樹だそうです。 なんでも、大木さんのご先祖がこの樹と関係が深く。… ========================================== 写真には木蓮の樹の前で朗らかに笑う初老の男性が写っていた。 ざっと記事を読んだ岩瀬が顔を上げると。 加藤が興味深げに目を光らせる。 「代々受け継がれてきた樹。しかも、関係深い…とくると…。興味がわきますよね?」 「あぁ…そうだな…」 「で。その男性に電話して聞きました。で、更に興味深い事が…」 「なんだ?」 「大木家の言い伝えでは… その樹にはなんでも『お姫様がついている』と。」 「…それは…」 「えぇ…。きっと隊長が見たのと同じモノだと…。」 「やっぱり…」 「そして、その樹のある辺りの昔話と総合すると…どうやら大木さんのご先祖様は、その“お姫様”と恋仲だったようで… 所謂“身分違いの恋”だったみたいですね。なので引き離された様です。 で。現在に至ると…大木さんのご先祖様は残ってその木蓮の樹を守り続けたようです。」 「…引き離されたお姫様は…?」 「…樹に取り付いている位ですから…」 加藤は言葉を濁す。そして… 「何でも、大木家では“お守りさん”といって崇めてきたようですね。家のお守りだそうです。」 「…だったら、なんで…隊長に?」 「そこが不思議なんですよね…。」 岩瀬と橋爪の視線を受けた加藤は、一つ溜息をついて… 「私が推測するには… @隊長がそのご先祖様と似ていた。 A隊長とその“お姫様”の何かしらの想いがシンクロした。ですが… その記事の写真を見るかぎり。@の可能性は薄いかと…」 写真の中で笑っている男性は、石川とは似ても似つかない顔で。 確かに“似ているから”という理由は薄そうだ… だとすると― 「隊長の想い…か…」 「その可能性が高いですね…。」 「…じゃあ、如何すれば…」 「………」 そこで又、部屋中を沈黙が支配する― ** ** ** ** 怒りに満ちた目で、石川を見つめる女は― 「…そんな理想…叶う訳ないわ… だって…!」 「静音さん」 「だって…! 現にあの人は来ないじゃない!!こんなに待っているのに!!」 怒りから哀しみへと変わった瞳で、石川を見ていた。 そんな女を辛そうに見る石川は何も言い返せない… そして、何も言えない石川をキッと見据えた女は、涙を浮かべた瞳で、こう告げる。 「…だから… 貴方の想い人も来ないわ。」 予言にも似たその言葉に石川は瞠目する― 「………」 「どんなに想っても、願っても、叶わない事も在るんだもの…」 「静音さん…」 「それとも、貴方だったら、叶えられるの?」 「………」 「貴方だけが、願えば叶うの?」 「それは…」 「私の願いが足りなかったと云うの?」 「……」 「こんなに、願っているのに?まだ足りないの?じゃあ、如何すれば叶うの?」 悲痛な女の叫びに、石川は苦しくも自らの思いを言葉にする… 「…判らない…俺には如何すれば『願いが叶う』かなんか、判らない!」 「……」 「確かに、どんなに願っても。想っても。叶わない事もある… でも!一人で願うより二人で願えば、叶うかもしれない!!それに…」 「それに…?」 「…愛しい人を想い続けなければ、人は生きてはいけないんだ…多分…きっと…」 そう告げる石川の瞳にも、一筋の涙が―
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