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- 木蓮夜話 - A
― 只、それだけなのに… ―
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「…ですよね?悠さん …悠さん…?」 岩瀬は話の最中なのに、相づちも打たない石川を不審に思い、隣を見ると… うつらうつら…としている石川がいた― 『…まぁ、今日も一日、忙しかったし…』 この所、大きな事件はないが、日常の雑多な用事に忙殺されていた。 それに… この前の休日から、石川の様子がおかしい… 常に寝不足の様で、フラフラしている… 十分に睡眠時間を取っている。というのに… 特に仕事が終わり、部屋に帰ると直ぐにベットの住人と化してしまう― 今日は久々に石川が「話がしたい」と言ってきたため、他愛ない会話をしていたのだが… やはり、既に寝入ってしまっている。 そんな石川の体をベットに横たえ、少し青ざめている顔に不安を覚える。 『…どこか体の調子が悪いのだろうか…? Drに聞くべきか…?』 岩瀬が一人で思い悩んでいる頃― 隣で眠る石川は。 最近では当たり前になっている“夢”を見ていた― ** ** ** ** またこの夢だ― 相変わらず、夢の中の石川は何かから必死で逃げている。 そして、何度見ても、同じ結末― 解っていても、何も出来ない… 悲しい結果。 そこに倒れている女の上には只、白い花が降り注ぐだけ… ふと、自分が倒れている女の目線から外れていることに気付く。 『…あぁ…あの女性の夢を見ていたのか… 夢…なのか?』 不思議に思っていると― いつの間にか、倒れていた女が木蓮の下で泣いている… 『…この女性(ひと)は… 自分が亡くなったことに気付いてないのか…?』 明らかに“致命傷”と思われる胸の傷は未だに塞がることなく、女の衣装を赤く染めているのに― 只、目の前の白い花を見て泣いている女はピクリとも動かない。 石川は思わず話しかけてしまう。 『…あの… 俺にどうして欲しいのですか?』 目の前の女が何度も見せる“夢”― 自分に“何か”を伝えたいのであろうか…? そんな事を思っていたのだ。 でなければ、意味がない。 石川の問い掛けに全く反応せず。 女は只、花咲く樹を見るばかりで― そんな女に、石川はもう一度問いかけた。 『あの… 貴女は…何故ココに?』 其の質問に女はゆっくりと振り向き… 何かを囁く。 その声はとても小さくて… 石川にまで届かない― 石川は聞き取ろうとするが。 そんな石川に興味を失ったのか… 女は再び、木蓮を見入って… 石川を見ることはなかった― ** ** ** ** 「悠さん…! 悠さん!!」 石川は岩瀬に揺り起こされたようだった― ゆっくりと目を開けた石川に、岩瀬は安堵の表情で抱きしめる。 「よかった…!」 「…基寿…?」 「悠さん、眠っていたのに突然泣き出したから… 嫌な夢でも見ましたか?」 「…嫌な夢…か… 少し違うかな…」 「?」 「…最近、同じ夢を何度も見るんだ…」 「それはどんな?」 「…何かに追われている女性なんだが…」 そこで口を噤む石川に、岩瀬は続きを促すが― フルフルと頭を振り、石川は 「…いや…いいよ…」 と。 「悠さん!?」 「…俺も、よく解らないんだ…」 「……」 「ゴメン… もう眠い…」 そう言って、石川の瞳は再び閉じられた。 今度は穏やかな寝息と共に― 岩瀬は腕の中で眠る石川を見つめ― 「…これは… どうすれば…?」 腕の中の恋人からは、今朝よりも木蓮の香りが強くなっていた… ** ** ** ** 翌日― 何とか起き上がった石川と、『休みましょう!』と言い張る岩瀬の間で口論が繰り広げられたが… 結局は石川が聞く耳を持たず、出勤することになった。 朝の食堂はいつもと同じく、賑やかだ。 そんな喧騒の中。 石川は食事を取ろうと、食堂に行くところであった。 そんな石川と岩瀬に… 爆班の加藤が驚いた表情で近づいてくる。 「隊長!!」 「…どうした?加藤」 「…その… 大丈夫ですか?」 「なにがだ?」 「…顔色が…」 「あぁ…大丈夫だよ…」 「ですが…」 そう言って、加藤が石川に触れようとしたその瞬間― バチッ 加藤が触れようとした処から、静電気が走る。 そして― 石川はゆっくりと倒れていった… ― まだ… まだ駄目よ ― 薄れゆく、意識の中。石川は頭の中で響いた女の声を聞いた。 『…貴女は…』 そして、倒れ行く石川と岩瀬は一瞬だけ眼が合う。 「…基寿…」 声にならない呟きを読み取った岩瀬は― 「隊長!!」 石川を必死で呼んで、抱きかかえ様とした― が。 加藤の鋭い声で、制止される。 「ダメです!!」 「加藤?」 「補佐官は触らないで下さい!」 「なんで!!」 「貴方も引きずられます!!…お願いですから…!!」 「…それは如何言う事だ…!?」 その質問には答えず。加藤は偶々、近くを通っていたアレクを呼び止める。 「アレクさん!すみませんが、隊長をメディカルルームへ!!」 「へ?何が…?」 「いいから!早く!!」 「は、はい!」 加藤の気迫に押され、思わず返事をして、近寄ってきたアレクは。 「隊長!?…岩瀬…?加藤…」 事の事態を理解できないが、緊急事態だという事だけは解った― そして、加藤は岩瀬を見て 「補佐官!Drに連絡をお願いします。事情はそちらで。」 「あぁ…」 「補佐官… しっかりしてください…」 「加藤…お前…」 「兎に角。隊長をこのままにはしておけませんから」 「そうだな…」 岩瀬は訳が解らないまま。 アレクの腕の中に眠る石川をメディカルルームへと運んだ― ** ** ** ** 石川が運ばれたメディカルルームで。 岩瀬・西脇・橋爪・加藤・アレクの5人が難しい表情で並んでいた。 横たわる石川と同じぐらい顔色の悪い岩瀬が橋爪に問いかける… 「Dr…隊長は…?」 「えぇ…、特に目立ったところはないんですが…ただ、少し衰弱してますね…」 「じゃあ…」 「えぇ。今のところ、大丈夫でしょう…」 橋爪の一言で、一同はホッとする。 「一体、どういう事なんだ?」 西脇は岩瀬と加藤を見て、問いかける。 が…岩瀬は只、首を振り 「…解りません…」 と。 「…加藤?これは一体…?」 「…えぇ…言っても、信じてくれないかもしれませんが…」 「事情も解らないままでは、判断の仕様がないしな…。構わないから話してくれ。」 「はい…。その…隊長の背後に…」 そこで、加藤は一旦区切り。 決心したように皆を見回した。 「隊長の背後に、女性が… 正確には女性の霊がいます。」 加藤の爆弾発言に一同は言葉を失う。
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