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- 木蓮夜話 - @
― ずっと一緒にいたかった ―
** ** ** ** ** ** それは春も間近という日のこと― 休日を利用して2人は少し遠目のドライブに出掛けていた 「いいお天気ですね。良かったです。」 「あぁ。ホントだな」 「お昼も美味しかったし!言う事ナシですね。」 「本当にさっきのおソバは美味しかったな。」 「えぇ。また来ましょうね!」 「そうだな。」 石川はクスクスと笑い岩瀬の意見に頷く お昼はこの辺りの名物だというソバを堪能した2人だった。 2人で先ほど食べたソバについて感想を述べ合ったり、 午前中回った植物園について他愛ない会話を楽しんでいた。 車を走らせて小一時間ほどたった時、ふと。岩瀬が前方を見て感嘆の声を上げる。 「うわぁ!凄いです!見てください悠さん!!」 「本当だな…。凄い…」 そこには白木蓮の大木が見事に咲き誇っていた― 「寄って行きませんか?」 「あぁ…。」 岩瀬は木蓮の大木に向けて車を走らせる、程なく2人は木蓮の木の前にたどり着いた。 「降りて見ましょう!」 「そうだな。折角だし…」 車から降りて樹に近づく 「近くで見ると、更に迫力がありますね…」 「そうだな…。綺麗だ…」 「本当に…」 暫し、白木蓮に見入っていた2人を一陣の風が吹きぬけたその時。 ― 只、一緒にいたかっただけなのに… ― 「うわ!凄い風ですね」 「……」 「悠さん?どうかしましたか…?」 「今…何か聞こえなかったか…?」 「え?」 「風に乗って女の人の声が…」 「…この樹から聞こえたような…」 そう言って木蓮の樹に近づき手を添える。 そして石川は魅入られたようにピクリともしないで立っていた。 そんな石川の行動を見て岩瀬は言いようのない不安に駆られ― 「悠さん!?」 「…いや…なんでもない…」 なんでもない。と言う石川の顔色は随分と悪くなっていた― 「…随分日が落ちてきましたね。戻りましょうか?」 「あぁ…そうだな」 その事に気づいた岩瀬は未だ木蓮に見入っている石川を急かし車に乗せる。 そして、帰路へとついたのだった。 不安な思いを持ったまま… ** ** ** ** 寮に帰り着き、車から降りた石川を心配そうに岩瀬が見る。 「悠さん…。具合悪いですか?」 「いや…。そんなことないぞ?」 「…そうですか…じゃあ、部屋に戻るとバスの準備しますから!」 「…あぁ…ありがとう」 岩瀬は部屋に戻ると直ぐ、石川の為に少し温めのお湯を張る。 そして 「いいですか、ゆっくりキチンと温まってくださいね!」と念入りに言うと… 石川は笑いながら… 「子供じゃないんだから…。心配性だな。基寿は」 そう言ってバスへと消えていった― その間に岩瀬はベットメイクし、石川が出てくるのを待つ。 数十分後― 岩瀬に言われたとおり、ゆっくりと温まった石川はベットの上で心配顔な岩瀬を見てクスクスと笑う。 「本当に心配性だな…」 「だって…悠さん何だか様子がおかしいから…」 「そうか…? 少し寒かったからかな…?もう大丈夫だ。基寿もゆっくり温まってこいよ?」 それでもまだ心配な岩瀬をバスへと追いやり。 石川はおとなしくベットへと潜りこんだ。 『…なんだか凄く眠い…』 石川は直ぐに眠りにつく 急いでバスから出てきた岩瀬はそんな石川を見て、やっと人心地ついたようだった。 『…明日も早いですからね…お休みなさい悠さん』 石川の額に軽くキスを落として岩瀬も眠りについた。 ** ** ** ** 夢の中― 石川は何かから必死で逃げていた。 『早く…早くあの人の元へと行かないと!!手遅れになってしまう!!』 後ろからは大勢の人間の足音が迫ってきて― 『早く…あぁ…無事でいて!貴方!!』 ** ** ** ** ピピピ― 石川は目覚まし時計の音で目が覚めた。 『…ヘンな夢だな… 十分眠ったのに、体がだるい…』 何時もならば、目覚めはすっきりとした物なのだが。 今朝は何故か疲れが取れていない… 兎に角、眠くて仕方がないのだ。 「お早うございます。悠さん …フレグランス変えました…?」 「お早う基寿。 なんでだ?何時もと同じヤツしか使ってないが… それに今起きたところだし…」 「そうですよね…」 「洗面使うぞ?…もう時間がないからな。基寿も早くしろよ。」 不思議そうな岩瀬に薄く笑いかけ石川はそう言って顔を洗いに洗面へと消えていく。 そんな石川の後には何時もとは違う香りが残っていて― 「…木蓮の香り…?」 そこには更に不思議な顔をした岩瀬が立っていた。 ** ** ** ** 石川は岩瀬と午後の巡回に出掛けた。 「お疲れ様でっす。隊長」 「あぁ…。開発は何時でも元気だな。」 アレクの全開の笑みに石川は微笑で返し、そう言った。 「お疲れ様〜。石川… あれ?香水変えた?」 「本当ですね。いい匂い〜。これって…木蓮ですか?」 「…二人とも岩瀬と同じ事を言うんだな…。残念ながら変えてないよ…。そんなに匂うのか…?」 「うん。いい匂いだけどね。」 「そうですね。」 「……」 宇崎とアレクからもそう言われ、石川は少し考え込む… そんな石川を見て宇崎とアレクは 「…元気ないですよ?隊長…」 「ホントだ…具合悪い?」 二人からそう聞かれ、石川は苦笑する… 「皆、過保護すぎ。なんでもないよ…」 「ホントに?石川は無理するからなー!」 「宇崎に言われるとはね…」 クスリと笑って石川は肩を竦める。 「あちゃ…。それを言うと隊全部だよね…」 「…確かに…」 「ココは“仕事好き”の集まりですからねー。」 「そうだな。」 アレクと宇崎との会話に笑っている石川を見て岩瀬は。 『…やっぱりあの香り…俺の勘違いじゃなかったんだな… でも、なんでこんなに不安なんだ? まるで悠さんが遠くへ消えてしまいそうな…』 岩瀬のそんな思いも知らずに3人は他愛のない話を続けていた― ** ** ** ** その日の夕方― 食堂を後にした石川と岩瀬は自室へと戻ると… 「今日も早く寝ますか?悠さん」 「あぁ…。ゴメン…もう眠い…」 岩瀬が振り向くと、既に寝始めている石川の姿があった― 「悠さん?」 もう返事はなく…。今朝よりも強く香る木蓮の香りが石川を包んでいた― ** ** ** ** ―またこの夢だ… 石川は何かから必死で逃げていた。 『早く…早くあの人の元へと行かないと!!手遅れになってしまう!!』 後ろからは大勢の人間の足音が迫ってきて― 『早く…あぁ…無事でいて!貴方!!』 石川はやっとの思いで白木蓮の元へとたどり着く。が… 『いない!! 何故…?』 待ち合わせの場所に思い描いていた人の影はなく… そこに居るはずだった人の片袖が落ちていた ― 血に汚れたままで。 『あぁ…私は間に合わなかったのですね…』 後ろからは大勢の人。前には白木蓮の樹が。 『捕まるわけには…』 そして、石川は落ちていた片袖をしっかりと握り締め― 『ならばこの命も最早… 直ぐに貴方の元へと参ります。』 自らが隠し持っていた短剣を取り出し… そして― 薄れ行く意識には只、木蓮の白い色と己から流れ出る赤い色だけが映っていた― ** ** ** ** 『…今日も体がダルイ…』 昨日よりも更に激しい睡魔と虚脱感… 石川は、やっと体を起こした。 「お早うございます!悠さん。 …悠さん?」 石川の様子がおかしい事に気づいた岩瀬は、直ぐに飛んでくる。 「大丈夫だ。基寿…。ちょっと夢が…」 「夢…?」 「…ゴメン…なんでもないよ、心配ないって。 それより早く支度しないと…」 「……」 「そんな顔するな。大丈夫だから…」 石川の言葉に納得しないながらも それ以上何を言っても聞かないであろう石川に溜め息一つで諦める。 「…悠さん…無理はしないで下さいね」 「大丈夫だって。」 そう言って、石川は洗面所へと消えて行った。 「…やっぱり、木蓮の香りが…」 石川の後には昨日よりも濃厚な木蓮の香りが… ←back next→