- 趣味は?と聞かれたら、『水泳』です!と答えたい… -
〜プールサイドの悲喜こもごも〜
10000Hit 慶様へ。
国会警備隊 隊長の石川悠は議事堂内の見回りをしている最中であった。
「はー。… 泳ぎたい…」
石川の呟きは誰に聞かれることも無く、青い空へと消えて行く…。
いや、唯一。その言葉を聴いたのは、石川の補佐官であり恋人でもある岩瀬だけで…。
「…ダメです…」
岩瀬の表情は苦虫を潰した様だ。
背後から掛けられた低い声に、石川はウンザリしたような表情で答える。
「…解ってるよ… でもな… こう暑いと泳ぎたくなるってもんだろう!?」
半ばキレ気味な答えにも、動じない相手は更に低い声で。
「絶ー対にダメ!ですからね!! たとえお天道様が許しても俺が許しません!!」
キレ気味な石川に対し、意味不明な理由で応戦する岩瀬だった…
「岩瀬…何も『海に行きたい』とか言ってる訳でもないし…。トレーニングルームのプールでもいいんだが…」
「いいえ!トレーニングルームの方が危険です!!」
「なにが…?」
「いろいろと。」
「・・・・・・」
「だって悠さん!」
「隊長。」
「…隊長!貴方の事を狙っているヤツは腐るほどいるんですよ!?」
「いや。いないから。」
ビシッと切り返す石川に対し岩瀬は溜め息をつき―
「…はぁ… 解ってないです…」
「何が?」
「貴方が隊員にとってどんな存在なのかを!貴方は“高嶺の花”なんですよ!?それがプールで堂々と裸に…!!」
「…裸じゃないし…海パンぐらい穿いてるし…」
「当たり前です!」
「いいじゃないか。少しぐらい」
「よくないです。」
「岩瀬…」
「ココでプールに入るぐらいなら、何処か人気の無い海岸でも…!!」
「なんか、危険な匂いがする。」
「そんな事はありません!」
「…どうだか…それに、海で泳ぐにはまだ早いだろう?」
「そうですけど…やっぱり!隊長の水着姿を他の誰かに見せるなんて… 絶対にダメーーー!!」
フルフルと肩を震わせ絶叫しながらの抗議となる。
そんな岩瀬に呆れつつも、石川は…
「…あのな…岩瀬… 世の中そんなに物好きばっかりじゃないから…」
「いいえ!!隊長!いい加減に自分の魅力を解ってください!!世の中には怖い人がイッパイなんですよ!?」
「…いや…子供じゃないんだから…」
まるで、子供に言い聞かせるような内容に、呆れながらもとりあえず突っ込む。
そしてハッとある事に気付き… 軽く睨むように岩瀬を見る。
「…お前…このまま、うやむやにする気か…?」
「え!?」
「…やっぱり…」
「いえ、そんなことは…」
「お前がダメだって言っても、俺は泳ぎたい!」
「隊長…」
「ココ(トレーニングルーム)が駄目なら、スポーツジムでもいいけど?」
「・・・・・」
「岩瀬?なにも、一人で行くわけじゃないし。お前も一緒だろ?だったら、余計な心配はするなよ。」
「悠さん…!」
「じゃ、次の休みな。」
「はい!…って…え!?」
ニコリ。と極上の笑顔つきでそう言われると、思わず頷いてしまった岩瀬であった―
「もう決めた。変更はナシだ。」
「ちょっ…悠さん!?」
「隊長だって。」
「隊長!?」
「じゃあ、この話はココまで。」
あはは。と笑って石川は「次の休みが楽しみだ!」と、上機嫌だ―
それとは対照的に、岩瀬は最初より苦虫が数十匹足された様な表情だった。
++ ++ ++ ++
その日の夜―
岩瀬はアレクに相談していた。電話BOXの近くの休憩所で。
肝心の石川は、現在登に電話中だった。
「どうしたらいいと思う?アレク…」
「いや…今更如何しようも…」
「困ってるんだから、もっと親身になって考えろよ!」
「…(聞いてるだでも、十分だと思うんだけど)…」
「うぅぅーーー…」
頭を抱えて悩んでいる岩瀬に声が掛けられた。
「だったら、トレーニングルームのプールを借り切ってやれば?」
サラリと。背後から解決案を出したのは…
「「西脇さん!」」
二人は同時に振り返ると、そこには“よっ”とばかりに手を上げる西脇が立っていた。
「…そこまでする必要がありますか…?」
アレクは西脇の提案に眉をひそめる。が。岩瀬は物凄く乗り気で…
「そうですよね!その手がありました!!有り難うございます西脇さん!!」
ニコニコと満面の笑みで西脇に抱きつこうとする―
それを「来るな。岩瀬…うっとおしい…」と、、物凄く嫌そうにかわした西脇は。
「…それ位しないとコイツが納得しないだろう?」
「う…。確かに…」
アレクは隣で一人激しく納得している岩瀬を見て、苦笑する。
『これがホントに“クール”な岩瀬だったんだろうか…実は別人とか…』
アレクは昔の岩瀬を思い浮かべて、余りの変わりように笑えてくる。
『実は別人でした!』とか言っても軽く信じてしまえそうな程、岩瀬は変わったと思う―いい方向へ。
友人としては嬉しい事なのだが…。
隣で「ぐふふ…」と笑う友人の姿に、一抹の不安を覚える。
果たして。本当にいい方向へ変わったのだろうか…?
岩瀬は、西脇の提案に一人ココロ躍らせていた。
『大好きな恋人と、二人っきりのプールサイド。しかも相手はホボ裸。』
…これで、甘い期待をしない方がどうかしている。
『よっしゃ!計画はバッチリ。後は…』
岩瀬は一人。「ぐふふ」と変な笑い方をしていた…。
一方。提案をした西脇は。
『あ〜ぁ…。顔面土砂崩れだな…岩瀬。 ふっ…まだまだ甘いな…。
石川はお前が思っているほど甘くはないんだが… まぁ、いっか。実際に体験した方が解るだろう。』
西脇も一人ニヤリ。と笑っていた―
そんな三人の秘密会議が行われている頃―石川は。
登との電話も終わり、岩瀬が待っている近くの休憩所へと足を向ける。
そこには、なんだか笑顔全開の岩瀬と困り顔のアレクが座っていた。
「悠さん!電話終わりました?」
「あぁ。…アレク?」
「お疲れ様です!隊長。岩瀬と雑談してました。」
「そっか。…まだ話すなら、先に帰ろうか?」
「いえ!もう休憩終わりですから。」
「…アレク、仕事もたいがいにな…」
「あはは。隊長こそ!じゃ」
「有り難うアレク!」
アレクが立ち上がると、岩瀬が感謝の気持ちを伝えた。
それに対し、アレクは片目を瞑り―
「いんや。…じゃあ、貸し一個で。」
「OK」
そう言ってアレクは開発へと戻っていった。
「…『貸し』って?」
「ちょっと相談ごとが…。」
「ふーん…」
「あ!悠さん!今度の休みなんですが…」
「絶対に泳ぐから。」
「えぇ。それはいいんですが…」
「いいのか?」
石川は先ほどまで、かなり渋っていた岩瀬の変貌に驚く。
「はい。それでですね、場所なんですがトレーニングルームのプールを貸しきろうかと…」
「は!?」
「貸切にしたら、どれだけ泳いでくれても大丈夫ですし…」
「…そこまでするか…?」
「…駄目ですか…?」
「駄目って言うか…(職権乱用では?)」
「以外は受け付けません!」
言い切った岩瀬は、チラ。と石川を見る…
『どうしよう…怒らせたら…』
今更ながらに岩瀬はドキドキしてきた…
「はぁ…。いいんじゃないか?それで…(というか、それ以外選択肢がないんだが…)」
「やった。」
小さくガッツポーズを決めた岩瀬に、不審な目を向ける石川だが…
やはり、堂々と?泳げることが嬉しいらしく、余り気に留めなかった。
「じゃあ、申請しておきますね!」
「あぁ。頼むな」
二人はイソイソと部屋へと戻っていった。
だが。二人の中では全く違った事を思い浮かべていたのだが―
++ ++ ++ ++
休日。
石川と岩瀬は約束通り、(本当に貸切の状態の)プールへとやって来た。
「悠さん!思う存分。泳いでくださいね!!」
「あぁ。」
そう、返事をする石川は、実に嬉しそうで…。
『よかった…本当に嬉しそうで…。これで【プールサイドで仲良くまったりvv】計画は無事に遂行出来そうだ!』
ぐふふ。と、妖しい笑いを発している岩瀬を尻目に。
石川はサッサと着替えて一人、柔軟体操をしていた…
『本当に久しぶりだな…よし。思う存分、泳ぐとするか!!』
柔軟を終えた石川は、早速スタート台に立つ。
その姿は水面の光を浴びて、キラキラと光っているようだ。
『神様!アリガトウ!!』
そんな石川の姿を見惚れている岩瀬はココロから神に感謝した…。
―バシャッ―
飛び込んだ石川はゆっくりと泳ぎだす。
『…気持ちいい…。しかも独り占め。…これは癖になるかも…』
大きなスクロールで50Mを泳ぎきった石川は…
【貸切プール】に意外と快感を覚える事に気付いた。
一方、岩瀬は…。
未だ、着替えもせずに、石川の泳ぐ姿を眼に焼き付けていた…。
石川の泳ぎは綺麗な形で…。
柔道でもそうなのだが、基本が綺麗に身に付いているので、形が崩れない。
つまり…。見本のような形なのだ。
『さすが悠さん!何事も完璧。』
ボンヤリ、石川に見惚れていた岩瀬を、プールから上がってきた石川が見つける。
「基寿?泳がないのか?」
声を掛けられ、ハッと石川を見た岩瀬は絶句した。
プールから上がった石川は、濡れた前髪をかき上げていて…。
本人の自覚なしに壮絶な色気が漂っている―
『ぐはっ!思っていた以上にヤバイ…』
その姿を見た岩瀬は、【貸切】にして正解だったと、心底思った…。
今ココに、自分以外の人間がいないからいいものの…
もし、石川の言うとおりジムに行っていたら…
一体どんな目にあっていた事やら…。
プールサイドで人がバッタバッタと倒れてゆくのを想像してブルッと身を震わせる…。
『ホント、ココでよかった…』
いらぬ心配をして、固まっている岩瀬を不思議そうに見て。
「おーい!基寿!泳がないのか?」
石川はもう一度、声を掛ける。 と…。
やっと現実世界に戻ってきた岩瀬は。
「はい!泳ぎますとも!!」
「あぁ…。じゃあ、着替えたら俺と競争しないか?」
「いいですよ!」
「じゃ、待ってるから。」
「はい」
岩瀬はダッシュで着替えるべく、更衣室へと消えていった―
++ ++ ++ ++
「Set…Ready Go!」
機械的な掛け声と共に同時に飛び込む。
50M自由形。での競争となったのだ。
貸切と言っても、普段通りの機能が働いているので自動でタイムが計測される。
―ピッ―
軽い電子音と共に、二人がほぼ同時に水面から顔を出す。
「どっちだ!?」
電光掲示板に視線を送ると…
コンマ0.5秒の差で石川の勝利だった。
「…手を抜いてないだろうな…?」
「当たり前です!」
息切れ気味な岩瀬は苦笑とともにそう答えた。
「そっか。」
「悠さん、早いですね」
「まぁ…。子供の頃から泳ぐのは得意だったし…」
「そうなんですか?」
「あぁ、よく近くの川で泳いでたしな。」
「川で!?」
「あぁ。あっちの方は川の水が綺麗だったから…。夏は冷たくて気持ちよかったなー…」
昔を懐かしむように、目を細める石川に岩瀬は複雑な視線を向ける…
『川って…。そんな危険な事を!!子供の頃の石川も大変可愛らしいのに…!』
石川の意外な過去に驚きを隠せない岩瀬であった…
「…よく、泳いでたんですか?」
「あぁ。…もしかして、基寿は川で泳いだことないのか?」
「え?えぇ…。」
「川で泳ぐのはホント気持ち良いのに…。今度、帰省した時にでも行ってみるか?」
「はい!是非!!」
「登がお盆ぐらいは帰って来いって言ってたからなー。その時にでも行こうか?」
「だったら、もう直ぐですね!うわー!楽しみが増えましたvv」
「あはは。そんなに期待されると困るけどな。」
穏やかに笑う恋人を見て、岩瀬は。
『やった!イイカンジになって来たぞ…。【プールサイドで仲良くまったりvv】計画発動だ!!』
自分が待ち望んでいた雰囲気になってきた岩瀬は“よっしゃ!”と小さくガッツポーズをして―
「悠さん…」
隣のレーンで微笑んでいる恋人の肩に手をかけた。
が。
その手をスルリとかわし、プールから上がった石川は…
「さー。まだまだ泳ぐぞ!!」
「え?」
「なにしてるんだ?早く来いよ!」
泳ぐ気満々でスタスタとスタート台へ向かっていく。
「次は何で勝負しようか?平泳ぎ?背泳ぎ?あ!バタフライは勘弁な。あれって余り好きじゃないんだよなー…。」
「・・・・・」
「ん?基寿?どうかしたのか?」
未だ、プールから上がってもいない岩瀬に目を向け石川は不思議がる。
『何故、一緒に来ないのか?』と。
そして、目がキラキラしている…。ココロから楽しいのだろう。
そんな恋人を目にして、岩瀬は―
『…俺の計画が…【プールサイドでラブラブvv】が…!!まあ、所詮そんなことだろうと、思っていたさ…』
盛大な溜め息を一つ零して。
プールサイドで待っている可愛い恋人の下へと歩き出した。
今日は彼の思うがままに付き合おうとココロに決めて―
++ ++ ++ ++
結局。
その日、貸切に出来たのは午前中だけだったので…
石川と岩瀬はお昼前にはプールを後にした―散々泳いだ後で。
そして…翌日には、微妙な筋肉痛に悩まされる岩瀬の姿があったとか…。
当の石川はと云うと ― 生き生きと実に元気に仕事をこなしていたのであった。
そんな二人を見て西脇は。
『やっぱりな…岩瀬、世の中そんなに甘くはないだろう…』
と、呟いたとか…。
→おまけ。(慶様作)
06.06.08 UP
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