【そして君に会いに行く】A
衝撃の告白から一夜。
石川はグルグルしすぎて…軽い寝不足になっていた―
「…なんで、こんなに悩まなくちゃいけないんだ…?」と、自問自答を繰り返し。出た結果が…
『今は恋愛感情に回す気持ち的余裕はない!』という事で―
「…岩瀬には悪いが…ここはスパッと諦めてもらうしかないか…。」
一人、呟きながら身支度を整えていた…。
すると―
コンコン。
軽い調子でドアがノックされる。
石川は時計を見て…「…今日は早いな…」と。
岩瀬が自分のSPとなってから、毎朝の日課となっているのが、この部屋までお出迎え。だった…
最初はカナリ抵抗したのだが…。周りの皆に言いくるめられ…何時の間にやら定番と化している。
もう一度、ノックがされ―
「はい…ちょっと待て…」
岩瀬にも緊急用の合鍵が渡されているが、石川がドアを開けるまでは決して開けたりはしない。
だから、今日も石川がドアを開けると、ソコにはニッコリと笑う岩瀬が佇んでいる。…はずだったのだが…
ドアを開けると、ソコには何故か西脇が立っていた―
+ + +
「西脇…?」
思いがけない人物が目の前にいると、人は心底驚く物だと、変に冷静な部分で思ったりする。
そして、驚きで石川が固まっていると―
西脇は不思議そうに石川を見ていて…
「なにか?」
「…いや、なんでもないが…どうかしたのか?」
「いえ…ちょっとした私用がありまして…」
「緊急か?」
「…程ほどに。」
…意味が解らない。といわんばかりの石川の表情に西脇は苦笑する。
『いつのまに、こんなにも表情豊かになったのだろう…。』
訓練校時代でも、こんな風にはっきりと解るほど表情が豊かではなかった石川の微妙な変化に目を見張る西脇であったが―
そんな西脇を不思議そうに見て、石川が問いかけてくる。
「西脇?」
「…いえ少し考え事を…」
「…用事があるのだろう?」
「そうですが…。」
「…ココじゃ話しにくいのか?」
「えぇ、まぁ…」
「入れ」
無防備に部屋へと招きいれようとする石川に、『こういう所は変わらないか…』と。一つ溜息をついて西脇は…
「いえ。屋上でもいいでしょうか?」と、提案する。
そんな西脇を更に不思議な物でも見るような顔で石川は頷いた。
「…余り時間がないぞ?」
「解ってます。直ぐ済みますから。」
「…わかった」
+ + +
屋上まで無言でたどり着いた二人は、思いのほか激しい風に、眉をひそめた。
「風が…強いな」
「台風が来ているみたいです」
「そうか…外警は十分に気をつけるよう」
「はい」
…いつでも、何処でも。仕事の事が頭から離れない石川に西脇は苦笑する。
「石川…いいか?」
プライベートな呼びかけに、石川はココへ来た目的を思い出す。
「なんだ?」
「…石川は…」
西脇が何かを言いかけたとき、二人の無線がなる―
一瞬にして、切り替えた二人は無線に出ながら、足は屋上の扉へと向かっている。
「石川だ」
「三舟です。…脅迫文が送られてきました…」
「…解った、直ぐ行く。」
「はい」
端的な報告だったが…その分、余計に緊迫した空気を伝えていた。
石川は隣を歩く西脇に視線を送り―
「西脇…」
「後でいいですから」
最後まで言わなくても、解ってくれる。
そんな西脇に軽く笑いかけ、石川は前を見据えた。
「行くぞ、西脇。」
「はい」
二人の歩くスピードは早くなっていた…
+ + +
石川が中央管理室へと入ると―
そこには既に岩瀬の姿があった。
岩瀬は石川の姿を見つけると、嬉しそうに笑いかけ、そして―
「石川さん!何処へ行っていたんですか!?探しましたよ…」
「すまない。西脇と話を…」
「西脇さんと…?」
「あぁ。…それより、脅迫文は?」
「こちらです」
三舟が差し出したものは、A4サイズの紙にびっしりと書かれた『犯行声明分』で…
内容は何時ものと変わらない…けれど、異様な雰囲気を持ったものだった。
「これは…?」
「今朝、総理官邸に届けられた物だそうです…」
「官邸は?」
「厳戒態勢です。そしてこちらが…」
もう一枚、差し出された紙には…
先ほどの声明文と対になるような内容の声明文で。
「これは?」
「先ほど、届けられました…。宛名は…」
そこで、三舟がチラリと岩瀬を見る。
岩瀬は軽く頷き…
「自分宛でした。」
「岩瀬宛…?なんでまた…」
「解りません…ですが。」
「なんだ?」
「狙いは俺かと…そして教官、貴女も…」
「…」
一瞬、重苦しい沈黙が落ちてくるが。
「…何も気にすることはない。いつもの事だ…」
「教官…」
「警備の人数を増やせるか?」
「はい。現在調整中です。」
「警備レベルを上げる。それに伴い、シフト調整を。」
「はい」
「…今朝の朝礼は中止。直ぐに警戒態勢を整えるよう!各班、班長の指示に従え!」
「はい」
「内藤さんに連絡を―」
そこにタイミングよく、内藤が到着した―とWゲートから報告があった。
+ + +
「よぅ!石川…全くお前さんは好かれるな…」
開口一番。そんな憎まれ口を叩く内藤に石川は苦笑する。そして―
「えぇ…嬉しくはないですけどね。内藤さんこそ…一人でウロウロしない方が…」
「俺は一人が性に合ってるんだよ。」
ポンとすれ違い様に石川の肩を叩き、内藤は。
「班長どもを集めてくれ。緊急の会議だ!」
「はい―」
そのまま一緒に会議室へと移動する。
その道行きで内藤は一言も、今回の事件については喋らなかった。
そのかわり―ではないであろうが…。他愛ないことは良く喋っていた。
その事に、石川も岩瀬も触れず、ただ、黙って笑いながら相づちを打っていた…
何故なら。内藤が他愛ない話を振る―という事は、それだけ事件が深いものを抱えている―という事に違いなかったからだ…。
談笑を交わしながら会議室へ到着すると―既に班長達は揃っていた。
それをチラリと見て、内藤は。
「よう!お疲れさん。良い知らせと悪い知らせがある。どっちから聞きたい?」
ニヤリと笑ってそう聞いた。
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