【PLEDGE】
岩瀬が友人に会いに出かけた非番の日、一人外へ出た石川は岩瀬の父親と出会ったのである。
それは足を挫いた女性を初対面の人と二人で助けた形となった後しっかり事件に巻き込まれてしまい、解決後岩瀬と合流した時に判った事実。
ずっと謝らなければならないと思っていた事もあり、深々と頭を下げる石川に対し、岩瀬の父はとても優しく、暖かい笑みを返してくれたのだ。
そしてずっと基寿を傍に置いてあげて下さいと。これで全ての憂いが消えたと云う訳ではないけれど、少し心が軽くなったような気がしたのである。
その後、岩瀬の父親がトラップ好きである事を聞かされ、行動を共にしていた時の事を思うとつい笑みが零れてしまう石川であった。
初対面だったにも拘わらず初めて会ったような気が全くせず、妙に居心地が良くて、自然と一緒に居られる空気を感じたのにも納得出来る。
この父あってこの子あり
まさにそんな感じであった。
「悠さん?何見てるんです?」
嬉しそうに何かを見つめている石川に対しそんな言葉を掛けてきたのは、トレーニングから戻ってきた岩瀬であった。
「うん?今日届いた結婚式の招待状だよ」
そう応える石川はの笑顔はとても柔らかく、天然の魔性健在といった感じである。一般の隊員達が見たら、きっと仕事にならないに違いない。
それだけ魅力的な笑みを見せながら、岩瀬の海里から届いた招待状を示すのであった。
「ああ、海里からの。でも何で楽しそうに見てたんです?」
「一度電話で話した事はあるけど、直接会った事はないだろ?だから会うのが楽しみだと思ってな」
電話で話した時は些か引き気味になってしまったが、根が素直で明るいところが岩瀬と似ているなと、直接会って話して見たいと思っていたのだ。
「それを聞いたら、海里の奴喜びますよ。従姉妹の巴淑や父さんは会っているのに、自分は直接会った事がないから悔しいって云ってましたから」
「そうなのか?」
「ええ」
岩瀬の従姉妹である巴淑は、ロスに住む彼と喧嘩をした時、岩瀬に会う為に来日して来たのだ。
そしてその時丁度デートの待ち合わせをしていた事もあって、石川も共に行動をしたのである。
わざわざ岩瀬に会いにやってきたと云う巴淑。アレクや石川と居る時に見せるのとはまた違う雰囲気に、石川は嫉妬した事を覚えている。
そして巴淑が買ったネクタイを岩瀬の為に買ったのだと勘違いし、岩瀬にプレゼントする為に買ったネクタイに自分の思いを記したのである。
その時プレゼントしたネクタイは、今でも岩瀬のお気に入りとして大事に使われている事は云うまでもない。
「その後巴淑さんは彼と上手くいっているのか?」
「ええ、海里の話だと上手く仲直りして、式には二人を招待していると云ってました」
「そうなんだ。それは良かった・・・」
「巴淑、悠さんに会えた事とても感謝してるみたいですよ」
「えっ?」
思いも寄らない岩瀬の言葉に、石川は驚いたような表情を浮かべてくる。
何故なら、特に何をしたと云う覚えは全くなく、そればかりか仲むつまじい二人の様子に嫉妬し、嫌な表情をしていたのではないかと思っているから尚更である。
「俺は何も・・・」
「あの時捕り物があったでしょ?俺はSPをやっているから当然としても、悠さんが的確な指示を出し、自ら犯人を取り押さえた様子を見て、
彼にもあんな立派な人になって欲しいと云ったそうなんです」
「立派って・・・俺はただ普通にしていただけだぞ?」
「そうですね。でも、DGでもない一般人から見れば格好良く映るんですよ。それに悠さんは本当に格好良いですからv」
「ばっ///何を・・・普段は可愛いとか云う癖に・・・」
「本当の事ですから♪」
何時も云われている事ではあるけれど、改めて云われると照れてしまうのか、石川の頬は仄かに朱に染まっている。
「それに事件に巻き込まれてではあったけど、父さんが悠さんと一緒に行動したでしょ?それで父さんが悠さんを気に入ったって云った事で益々直接会って話をしたいから、
式の前には絶対休暇を取って来て欲しいって云ってます」
「気に入ったって・・・」
そんな岩瀬の言葉を聞き、石川はふと事情聴取を待つ間に交わされた遣り取りを思い出したのである。
『親しいんだね』
一寸した遣り取りの後、たった一言そう告げられた言葉。
その意味を今まで深く考えた事はなかったのだが、その後に告げられた言葉を思いだし、石川は先程までの柔らかな微笑みを消すと些か緊張したような表情を見せてくる。
「もしかして感づかれたのか?」
「さあ、どうでしょ?でも俺、ちゃんと云うつもりですから」
少し怯えたようにも見える石川にそう応えながら、岩瀬は誰に何と云われようと、例え何があったとしても決して離れる事はないと、全てを包み込むような自信に満ちた微笑みを浮かべている。
「基寿・・・」
「大丈夫。自信を持って下さい」
石川が岩瀬の父親と事件に巻き込まれた後、チーフルームで交わされた会話の中でクロウが云った言葉。
あの状況で云える筈もなく、またそうじゃなくても一人では云う事が出来なかっただろう。
岩瀬も時間が無かったから云わなかっただけで、今度は云うとみんなの前で宣言したのだ。
そんな岩瀬と同じように、例え反対されたとしても、もう岩瀬と離れる事が出来ないと判っている。だからあの時のようにちゃんと謝って、ずっと傍に居る許可を貰いたいと石川も思っている。
「許して貰えるだろうか・・・」
「心配はいりませんよ。それに例え父さん達が反対しても海里は応援してくれます。相手が悠さんだって事は云ってませんけど、俺の恋人が男だって事は知ってますから」
「そうだったな・・・」
あれは丁度JDGのPRフィルムの撮影が決まった時の事であった。
来日した海里とテーマパークへ行った岩瀬が、自分の恋人は男性だと口を滑られせたのだ。そのお陰で気まずい日々が数日続き、心がすれ違ってしまった事がある。
あの時仲裁に入ったのは、見るに見かねた西脇であった。
その日撮影されたフィルムを検査すると云う名目で借受けると自らの睡眠を削り、二人の思いが現れているフィルムを編集してくれたのだ。
その裏には、何時までも痴話喧嘩を続け気まずい雰囲気を隊にばらまくなと云う警告も含まれていた事は云うまでもない。
良きも悪しきも石川が沈めば隊も沈む。それは副隊長として篠井が来てからも変わる事のない事実。
その事を思えば、何も畏れる事はない。寧ろ最強の味方がいると云う事になる。
「それなら尚更、直接会って話をしないといけないな」
「ええ、でも海里の奴薄々気付いてるんじゃないかと思います」
「基寿?」
「彼奴は俺の妹ですからね」
「どう云う事だ?」
その言葉に何が何だか判らないと云った表情を見せる石川に、岩瀬は柔らかい微笑みを浮かべながら言葉を紡いでいく。
「父さんが云ってたでしょ?俺が悠さんを置いては帰って来そうにないから、悠さんも招待したって海里が云っていたって事。だから余計気付いてるって思うんです」
それを聞いた石川は、複雑に絡まったパズルが一気に嵌ったように、ハッとした表情を見せるのであった。
「やっぱり海里さんには先に告げた方が良いようだな・・・」
「悠さん?」
「何となくそんな気がするんだ。それに直接お礼も云いたいしな」
「お礼って・・・」
「チョコレートだよ。お前だけじゃなくて、俺にも送られて来ただろ?そのお礼を直接伝えた事がないから・・・」
毎年バレンタインが近づいて来ると、海里から岩瀬とそして石川宛にチョコレートやお菓子が届けられて来る。
アメリカではそう云った風習はなく、逆に男性から女性へプレゼントが贈られるのだ。けれど、日本式に合わせてと送られて来るプレゼント。
そこに込められているのは、尊敬する兄に対する気持ちの現れなのだろう。
「悠さんにそう思って貰えてるっだけで、海里のやつ喜びます」
「そうかな?だと嬉しいけど・・・」
「ええ、間違いないです。だって悠さんがお礼を云ってるって伝えただけでとても喜んでるんですから。それにお兄ちゃんがお世話になってるんだから、
私からのお礼も兼ねてるんだって云ってますからね」
「世話になってるって・・・それは俺の方だろ?」
もし岩瀬が傍にいなければ、石川の名はとっくに殉職者名簿に載っていた事だろう。そうなっていない分、岩瀬が多くの怪我を負わせてしまっているのだ。
その事を岩瀬の父親のように海里も許してくれるのだろうか。
海里にとって岩瀬は自慢の兄なのだとアレクに聞いた事がある。
特に過保護であったと云う訳ではないけれど、さり気ない優しさで見守ってくれる頼もしい存在であり、困っている人を見ると何の躊躇もなくその手を差し伸べる岩瀬。
そんな岩瀬がSPとなって多くの要人を護っている姿を見る度に、岩瀬の妹である事が誇らしいと思えるのだと。
「海里は判っているんですよ。悠さんを護る事が俺の生き甲斐なんだって」
「基寿?」
「言葉に出して云わなくても、俺を見てれば判るんです。その証拠が毎年送られてくるチョコレートなんですよ。前に一度電話で話したじゃないですか?
それ以降海里から来るメールには決まって悠さんの事が書いてあるんです」
「俺の?」
「ええ、今日も隊長さんは無事だった?とか、ちゃんと護ってる?とかね。俺が当然だって云うと、嫌われないようにちゃんと護ってねって締めくくられるんです」
有言実行の岩瀬はやると云った事は必ず確実に実行してみせる。それは岩瀬がSPとして付いてから嫌って云う程示されてきた。
そんな岩瀬だからこそ、隊員達も絶大な信頼を寄せ憧れを抱いているのだ。
そしてそんな岩瀬が決まって口癖のように云う言葉がある。
悠さんがいなければ、俺も生きてはいられない。警護を離れろと云う事は、俺に死ねと云ってるのも同じなんです。悠さんが無事である事が、俺の幸せでもあるんです
それは岩瀬が石川を庇い怪我をする度に告げられる言葉。
大した事はないと告げても辛そうな表情を見せる石川を労り、慈しむような優しい笑みを浮かべならが告げられるのだ。
そして何時も大丈夫ですよと、その大きな胸に包まれるのである。
「海里は俺の一番の理解者なんです」
そう語る岩瀬の表情を見ていると、岩瀬がどれ程海里の事を思っているのかが判るような気がする。
それと同時に海里もまた、岩瀬の事を思っているのだと。
「そうか・・・なら余計に先に告げないといけないな。基寿と離れる気はないし、一生手放す事ができない存在だってな」
そう告げる石川の表情はとても綺麗で、揺るぎない意志が秘められている。
「もし基寿に相応しくないと云われたら、その時はどうすれば認めて貰えるか聞くよ。そして認めて貰えるように努力する」
「悠さん・・・そんなに俺を喜ばせないで下さい」
岩瀬はそう云うと、本当に嬉しそうな表情を浮かべながら、真摯な表情の石川を抱き寄せてくる。
「おい、基寿?」
「大丈夫です。海里は絶対認めてくれます。寧ろ俺には勿体ないって云われますよ」
「そうかな?」
「ええ、間違いないです。それに父さんだって認めてくれますから」
久しぶりに会った父親は、岩瀬に良い表情になったなと告げたのだ。それに僅かな時間だったとはいえ、石川と行動を共にする事で石川の為人を十分理解していた。
岩瀬が立派な人だと話していた通り、当たり前のように人助けをし、自らを盾に人を護る。そしてそれに見合う強さを秘めている事を知ったのだ。
「基寿・・・」
「もう気付いていると思いますから、尚更です」
もしそうでなければ、事情聴取までの短い時間に、母さんがこのまま恋人が出来ないんじゃないかと心配していると告げた後、石川に独身ですかと訊ねたりしなかった筈。
その事は石川も薄々気付いているようである。そうでなければ一瞬でも不安そうな表情を見せたりはしないだろう。
そんな石川の心を軽くするかのように、岩瀬は言葉を紡いで行く。
「心配しなくても絶対大丈夫です。それにもし父さんや母さんが反対しても、俺が説得して見せますから!」
SPになると決めた時、危険な仕事だと両親は反対をした。けれど岩瀬の本気を知り、父親である明はやりたいようにやれと、その背中を押してくれたのだ。
それと同時に、決して途中で投げ出すなと告げたのだ。
もとより投げ出す気の無かった岩瀬はA級SPとなり、その持てる能力を遺憾なく発揮して石川を護り続けているのだ。
その事は岩瀬の誇りでもあり、自慢でもあった。
かといって自分の能力を過信する事も傲る事もなく、自らを鍛え続けているのだ。その事を判っているからこそ、別れ際にいい顔になってきた≠ニ告げられたのだと思っている。
そしてその裏に石川のSPであると云う事の誇りを感じたのだろう。
「基寿・・・ありがとう。俺もがんばるよ・・・」
決して離れるつもりはないけれど、両家の家族には認めて貰いたい。その気持ちから石川はそんな言葉を呟くのであった。
「はい。俺に任せて下さい」
「うん。愛してるよ・・・」
力強い岩瀬の言葉に励まされたかのように、思っていても素直に口に出来ない言葉を囁き、石川は岩瀬に唇に己のそれを重ねるのであった。
岩瀬の妹、海里から届いた一枚の招待状。
新たな門出を告げる二人を前に、石川はこれから先もずっと岩瀬と共に歩む為の決意を新たにするのであった。
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King's Valley様で配布されていたフリーSSです。
強奪してきました(笑)
家族も大切だけれど、恋人も大切…
だからこそ認められたい!と思う悠さんと岩瀬。
お互いを思いやる2人のホンワカとした雰囲気が好きですvvv
未沙樹様&ひじり様!有り難うございます!!
06.02.05