- 自覚が無いほど性質の悪い物はない。-
3500hit あいと様へ
事例 ① ある日の昼食時。
それは、食堂での出来事でした…
石川は何時もの様に背後に岩瀬を従え、食堂へとやってきた。
そして―
普段であれば石川は自らの分を自分で取って来るのだが。
岩瀬が気を利かせて「取って来ますんで、席で待ってて下さい。」と…
その言葉に甘えて、席に着こうと食堂内をグルリと見回した。
丁度、その時。石川の目に映ったのは。
今年入隊したばかりの新人の一人である、外警の安藤であった。
安藤は、同期の一人と楽しげに食事をしている。
それは普通の事で…
石川の気に止まったのは、とても些細な事だった…
それは。
『安藤…お前…箸の持ち方が可笑しいぞ!?』
そう。安藤は、彼独特の箸の持ち方をしていた―
そんな安藤にツカツカと歩み寄り。
「…安藤…箸はもっと綺麗に持った方がいいぞ?」
「た・隊長!?」
全隊員の目標で、憧れでも在る石川に突然声を掛けられた安藤は、食べていたご飯を噴出しそうになる…
「安藤、その箸の持ち方でよく食べれるな…。余計なお世話かもしれないが、こうして持った方がいいぞ?」
そう言って石川は安藤の手から箸を取り。綺麗に持ち直させた。カナリの至近距離で。
安藤は普段では見ることのない、石川の顔を目の前にし、赤くなるやら青くなるやら…
ウロウロと視線を彷徨わせ助けを求める。が―
周りの視線はとても助けを求めるような雰囲気ではなかった…
ある者は『あーーー!!』と声にならない叫びを上げ。
ある者は『…くそぅ…』と苦々しそうに安藤を見て。
ある者は『うわ…』と、あんぐりと口を開けていた…
そんな中で、安藤はどこか慌てた様子の補佐官が自分達の方へと向かってくるのが見えた。
安藤は無意識に『助かった…』と安堵の溜息をついたが…
「はる…隊長!! なにしてるんですか!?」
「あ。岩瀬… いや、安藤が可笑しな箸の持ち方をしていたから、チョット気になって…」
「箸の持ち方…ですか…」
岩瀬がチロリと安藤を見ると―
軽く涙目になった安藤と目が合う。そして…
『如何すればいいんでしょうか!?補佐官!!』と。視線だけで訴えられた…
そんな安藤に同情の眼差しを向け、岩瀬はやんわりと石川の手を攫う。
「…隊長… 安藤はそろそろ勤務時間になるので…」
「あ!ゴメン…。じゃあ、午後もガンバレよ?邪魔したな」
「…いえ… 有り難う御座います…」
果たして。安藤の最後の言葉は石川に向けられたものか。それとも岩瀬に向けられたものか―
それから、暫くの間。
食堂では『可笑しな箸の持ち方』が大流行した…とか?
食堂の主曰く。
【岩瀬!! ちゃんと見張っておけ!でないと被害が広がるだろう!?】 と。
そして、今回の一番の被害者である安藤は。
事あるごとに、冷やかされる羽目になるのだが…
♦ ♦ ♦
事例 ② 梅雨時の悪夢(笑)
それはランドリーでの出来事でした…
「悠さん。今日の洗濯物はコレだけですか?」
「あぁ…そろそろランドリーで乾かさないといけないな…」
そう言って見渡す自室は―洗濯物で溢れかえっていた…
今は梅雨時。
自然と洗濯物は乾かず。
結果として、部屋に溢れかえっている。という事になる…
石川と岩瀬は顔を見合わせ…
「仕方ない。今日中に乾かそう…」
「そうですね。じゃあ、悠さん先に行って乾燥機を確保して置いてください。残りは俺が持って行きますから。」
「でも、重いんじゃ…」
「コレぐらい大丈夫ですよ!」
「そうか…?」
「はい。それに、そろそろ混んで来る時間では?」
「あ!そうだな… じゃあ、コレだけ持って先に行ってるぞ?」
「はい。お願いします。直ぐに追いつきますから!!」
「あぁ…」
そんな会話をして、石川は一人。ランドリーへと向かった…
目的地へ着くと丁度一台空いていて…
「タイミング良いな…」
ホクホクと石川は洗濯物を乾燥機の中へ入れ、スイッチを入れた。
そうこうしていると、大量の洗濯物を持った岩瀬がやってきて。
二人、仲良く乾燥機を回し、暫くの間待つことになる―
二人でベンチに座り、雑誌などを読んでいると…
岩瀬の肩に石川の頭が乗せられる。
「は…隊長…?」
岩瀬は『公共の場』という事で。オフィシャルな呼びかけをするが、一向に返事がない…
そっと、隣を見ると―
石川はスヤスヤと眠りについていた…
そんな石川を微笑ましく思った岩瀬は。起こすことなく其の侭にしておいた…が。
やはり、『公共の場』なので、カナリ目立つ。
しかも、最近では滅多に(岩瀬の努力の賜物。)見られなくなった『隊長の寝顔』だ…
噂は噂を呼び―
用もないのに、人目石川を見ようとランドリーへと現れる隊員が来る始末。
最初は、頑張って(笑)気にしないようにしていた岩瀬だが…
ついに我慢の限界が来て、可哀相だが石川をそっと起こした。
「隊長…乾燥機、終了しましたよ?」
そして―
ビービー。
タイミングよく、乾燥機が終了を告げるブザーを鳴らし。
「さて。たたむとするか!」
「はい。」
「あ。暖かいうちに綺麗にたたんでおくと、後が困らないからな!」
「了解です。」
二人でいそいそと。洗濯物をたたむ。
結構な量があったので、時間がかかるが。他愛ない会話をしながらだと、とても楽しい。
ようやく、たたみ終わった洗濯物たちを部屋へと持って帰り、それぞれに仕舞っていると―
石川が小さく「あ!」と声を上げた。
「悠さん?どうかしたんですか?」
「あ…チョット…下着が一枚無いなー…って」
「…えぇぇ!? …俺のほうには無かったですよ?」
「じゃあ。ランドリーだな… 取ってくるよ。」
「チョット待ったーーー!!」
のんびりと部屋を出ようとした石川に岩瀬が大声で待ったを掛ける。
「基寿?なんだ突然…」
「いやいや。悠さん… ランドリーに悠さんの下着を忘れたんですか!?」
「あぁ。ココに無いって事はそうなんだろう?だから取って来るよ」
「あぁぁぁ!!俺が!俺が行きますから!! 悠さんは部屋で待っていてください!!お願いです!」
「基寿…?」
石川は訳が解らないまま、岩瀬を見送ることになる。
それぐらい岩瀬の行動は早かった…
『冗談じゃない!ランドリーには他の隊員達も利用してるんだぞ!? なのに…よりによって”悠さんの下着”を忘れるなんて…!!』
岩瀬は鬼のような形相で(笑)寮内をダッシュする。
そして、ランドリーに付くと…
隊員達のひそひそ話が聞こえてくる―
「…これって…もしかして…?」
「…あぁ…さっきランドリー使ってたもんな…」
「…だよな?…だとしたら…」
「隊長…の?」
「「えぇぇぇぇ!?」」
数名の絶叫が木霊する…
そんな中。岩瀬が鬼の形相のまま(笑)ランドリーへと足を踏み入れる ― と。
「「岩瀬さん!!」」
中にいた隊員たちが振り向く。その手には ― Tシャツが一枚握られていた。
『よかった… 下着っていうから…てっきり…』
誰にも気付かれないよう、安堵の溜息をついた岩瀬は。
「あの…これ…」と。隊員が何かを言う前に…
「俺のだから!それ!!」
「…へ…?」
「ホント。俺のだから!!有り難うな。じゃ!お前達も忘れ物はするなよ!」
「…あの…岩瀬さん…?」
「じゃあな!」
有無を言わせず取替えしたTシャツを持って、岩瀬は。これ又ダッシュで部屋へと帰る。
その後姿を唖然と見送った隊員達は…
「…そっか…岩瀬さんのか…」
「…ちょっと小さかったのは乾燥機で縮んだからなのかな…?」
「…きっと…多分。そうだよ…」
ボソリと呟いたとか。
そして。ダッシュで帰ってきた岩瀬を迎えた石川は。
「ゴメンゴメン。あ!それそれ。有り難う基寿!実はお気に入りなんだ。よかったー」と。呑気に微笑んでいた―
「悠さん…」
後には岩瀬の盛大な溜息ばかり…。
06.07.23 UP
06.07.24 一部改定
|