媚薬を少々。


                                              21000Hit  雛月凛様へ






   人気の少なくなった、訓練校のラウンジ。
   そこには、何時とは少し違うメンバーが顔を揃えていた。
   尾美・康・クロウ・野田という、少々異色のメンバー。

   そこで事件は起きたのだった―



   「…これは…なんなんだ?」

   尾美は、つい先ほど口をつけたグラスをテーブルの上に置いて。
   自分にグラスを手渡した張本人、康を軽い涙目で見る。

   自分が飲んだのは【水】だったはず…決して、こんな味がする物ではないはずだ。
   口の中に広がる甘苦い味。
   正直、最悪の味だ…。
   甘い味も嫌いではない。
   苦い味も然り。
   でも、同時に味わいたいとは思わない。

   尾美は口内に広がる苦手な味と戦いながら、もう一度、件の同期を見る。
   すると…何故か、康の隣に座るクロウがニッコリと微笑んで―

   「ん?なにか知りたい?」
   「クロウ?…当たり前だろう!正体不明のものを飲まされるコッチの身にもなれっっ!!」

   尾美の怒りも最もだ。という表情で、野田が頷く。そして。

   「そりゃ知りたいよね!尾美だって」
   「あ…あぁ…」

   野田の不可思議な勢いにおされ、尾美は先ほどまでの怒りも半減しつつ、頷く。
   そんな尾美を少々気の毒そうに見て…康は微妙な表情で発言しようとした。が―

   「尾美が飲んだのは…まぁ…その…」

   普段では物事をキッパリ・ハッキリと言う康が、何故かそこから先を言いたがらない。
   そんな康をクロウはニヤリと笑って見て…そして衝撃発言をする。



   「尾美。それにはね…媚薬が少々。」



   「……はっっ!!??」
   「だから。び・や・く。【Philter】。解る?」
   「いや…解るけど…」
   
   わざわざ、区切りをつけてまで説明してくれるクロウに、ついつい普通に返事をするけれど。
   衝撃が過ぎて、やっと頭で理解できるようになった時に、もう一度大声で叫んだ。

   「はっっ!?媚薬っっ!?なんで?」
   「面白そうだから。」
   「いやいや。面白そうだからって…普通はそんなの試さないだろうっっ!!」
   「尾美…興奮すると回りが速くなるよ?」

   クロウの、のんびりとした発言に一瞬クラリと来る。
   そんな尾美にクロウは更に追い討ちをかける―

   「あ。それと…そのクスリは、【一番最初に見た人間】にしか効き目がないから。安心して良いよ」
   「安心できるかっっ!!って、【最初に見た人間】?」
   「そうすると…康になるわねぇ…どうする?尾美…」

   野田の、これ又のんびりとした発言に尾美は衝撃を受ける。
   媚薬が本物かどうかわからない状態で。
   相手が限定されるとはいえ…その相手がよりによって康!?
   これは一体、なんの冗談なんだ。

   尾美が本気でテンション下がっていると…
   康が本気で気の毒そうに、肩を叩いた。



   「尾美…実に言いにくいんだけど…。それ、只の水だから。」



   尾美が驚きの余り停止していると…
   クロウと野田が机を叩いて爆笑している。
   因みに、康は思いっきり苦笑だ…

   「あははっっ!尾美…本当に信じてるなんて…やっぱり最高だよ!尾美は」
   「ホント…可愛かったぁ!」

   余りの展開についていけない尾美を尻目に、二人の爆笑がラウンジに木霊する…。
   そして、固まって動けない尾美を康が覗き込んで―

   「おみー。大丈夫か?」

   康の声も。
   クロウと野田の爆笑も。
   遠い世界の出来事のように感じる尾美は、唯一動いている思考の中で状況を判断していた。


   
   チョット待て。…ここは訓練校だよな。
   たしか、これから国の将来の安全を請け負う人物が集う場所だよな。
   なのにっっ!なんで!自分の同期のメンバーは『ほぼ全員』こうなんだっっ!!!
   人をおちょくるのにも程がある!
   クロウはともかく…康や野田は少しぐらい止めようとは思わないのか。
   人で遊んでなにが面白いんだっっ!!!!
   まったく…本当にろくでもないヤツラばかりだ…。
   本当に。本当に…お前たちなんかとは…




   「一刻も早く離れてやるっっ!!!!!」




   人気の無いラウンジに木霊する、尾美の魂の叫びであった―











   そんな尾美の誓いも虚しく。
   これからの人生の中で多くの苦楽を共にするのが、このメンバーだったりするのだが…
   この時の尾美はまだ、知らない―








                                            08.03.28 UP




後書きという名の言い訳。

本当に…大変お待たせしました!
雛月様よりのリクエストで御座います。
…すみません!こんな風になってしまって…(苦笑)
が。本人は気に入ってくれたみたいなので…良かったです♪

素敵なリクを有り難う御座いました!!