それは夏のある日の出来事。
「悠さん!今日のお風呂はレモン風呂デス!!」
「レモン風呂?」
「はい!柚子湯みたいな感じデス!レモンを入れるとイイ匂いがして、リラックスするそうです!
最近お疲れのようですから…ゆっくり入ってきて下さいネ!」
「あぁ…有り難う。じゃあ先に入るよ。」
「はーい。」
そして順番にお風呂へと入り―
岩瀬が風呂から出ると、石川がビールを片手にTVを見ていた。
「悠さん!出ましたよ。」
「んー。基寿も飲むか?」
「はい。いただきます!」
-ゴクゴク-
美味しそうにビールを一気にあおる岩瀬をジーーっと石川が見ている…
その事に気付かない岩瀬は、プハァ!と飲み干した。
「風呂上がりだと一層美味しいデスネ!」
「うん。」
尚も、岩瀬を凝視する石川を流石に不審に思った岩瀬は―
「…悠さん…?どうかしましたか?」
「…基寿…」
「はい?」
「お前…イイ匂いがする…」
「…は…?」
「美味しそうだ…」
「あの…悠さん?」
おもむろに近づいてきた石川は、『イイ匂い』がする岩瀬の鎖骨辺りを…
-ガブッ-
「イタッ!!」
遠慮のない噛み付きに、涙が出そうになる岩瀬。
そして、更にクンクンと匂いをかぐ石川…
「……」
無言で噛み付いた辺りを凝視する石川に不安を覚えた岩瀬は、恐る恐る身を離す…
「…あの…悠さん?何を…」
「美味しそうな匂いがするのに…」
「いえ…そう言われても…困るんですけど…」
「基寿…もう一口良い?」
「悠さん?」
聞いた割には、返事も待たず。又もや…
-ガブッ-
「イタッ!!」
二度目も遠慮ない噛み付きで…
ガバッと体を離した岩瀬は。
「悠さん!!酔ってますね!?」
「…酔ってない…」
「…(いやいや。どう見ても、酔っ払いだし!!)…」
「基寿…なんで?美味しそうな匂いなんだ?」
「…そう言う悠さんもイイ匂いですよ?」
「…そうか…?自分じゃ分からないけど…?」
「ええ。凄く!美味しそうな匂いがしますvv」
腕の中の恋人からは、檸檬の香りがして…
そこで、岩瀬はクスリと笑う―
「何かおかしいのか?」
「いえ…。悠さんが噛み付いた気分が解るんで…」
「…気分…?」
「えぇ…。思わず食べたくなるような、匂いですから…」
そう言って、岩瀬は石川にキスをした―
「悠さん…明日の朝、怒らないで下さいね…?」
「…ん?」
「誘ったのは、悠さんですから…」
「…んっ…」
深さを増す口付けを交わしながら、二人はベットへと沈んでいった―
翌朝。
鏡を見た石川の第一声は。
「基寿!!お前…こんなに…!?」
「怒らないで下さいね!って…最初に誘ったのは悠さんですよ?」
「なっ…そんな事…」
「ホラ!コレが証拠です!!」
そう言って岩瀬が見せるのは―
昨夜、石川が思い切り噛み付いた痕で…
うっすらと記憶が残る石川はそれ以上怒る事が出来なかったとか…
そして、その日一日。
隊長と補佐官のシャツの第一ボタンが開かれることはなかった―
06.08.15 UP