【thought of
...】
KING'S VALLRY 未沙樹様より
桃の花が綺麗に咲いています。
甘い香りが辺りに漂い、何処かホッとした気分になれる、花言葉通りだなと岩瀬は思うのである。
そして思い返すのは、妹である海里が云った言葉。
『お兄ちゃんが虜になるのは、きっとこの花以上に素敵な人なんだろうね』
あれは一体何時の事だっただろう。
心を晴れやかにする色合いを持つ桃の花を愛でながら、そう告げた海里はもうすぐ花嫁となる。
その時に愛しくてたまらない人は、自ら恋人は自分なのだと告げる云う。
岩瀬の恋人が女性でないと云う事は既に知られている。
それ故に自分の恋人が石川だと告げたとしても、さして驚かないと思う。
むしろ察しているのでは無いかと岩瀬は思うのだ。
「基寿?どうかしたのか?」
突然そんな言葉を掛けてきたのは、岩瀬の心を虜にしているその人であった。
「いえ、何もありませんよ」
「そうか?」
「はい。ただ見とれてたんですよ」
「ああ、そうだな・・・今年は特に見事だから」
「ええ、本当に・・・」
急に立ち止まり見上げた先にあったのは、鮮やかな色を見せる桃の花。
久しぶりに時間が出来たからと散歩に出掛け、その甘い匂いに誘われるようにやってきた場所で急に立ち止まったのは、その花言葉通りなのだろう。
まさか目の前に咲く桃の花を前に、岩瀬がその花言葉を噛み締めているとは思いもせず、石川はとても艶のある綺麗な笑顔を浮かべながら愛でている。
岩瀬が急に立ち止まった事を訝しみながらも、岩瀬の言葉に何の疑問も抱かない。
それだけ岩瀬の事を信用してくれているのだと思うと、愛おしさが増すと云うもの。
桃の花の花言葉があなたの虜や愛の虜となると云う事を思いも寄らないであろう。
当の岩瀬だって、恋人が出来たと報告する海里に云われるまで意識していなかったのだから・・・
「悠さん」
「うん?何だ」
「愛してます」
「なっ///またお前は・・・」
「本当ですよ?」
「わ、判ってるよ。でも何で突然・・・」
「桃の花を見ていたら、急に告げたくなったんです」
「えっ?」
「桃の花の花言葉通り、俺は悠さんの虜になっていますから」
「基寿・・・」
そう告げる岩瀬の表情は何時にも増して優しさと愛おしさを秘めた物であった。
そんな岩瀬を前に石川は言葉を無くしてしまう。
「それなら俺もだな」
「えっ?」
「俺も、もうお前が居なかったら立っていられないから・・・」
「悠さん・・・」
「それにしてもお前は色んな事を知っているんだな・・・」
唐突に思いを告げてきた岩瀬からその意味を聞き、石川はしみじみとそんな言葉を口にする。
そして岩瀬がここへ来たがった意味を知ったのだ。
「ありがとう、基寿」
「悠さん?」
「気を遣ってくれたんだろ?」
「そんな事はないですよ。本当に見たくなっただけで・・・」
「ふふ、誤魔化さなくても良いよ。そうだな、この花の花言葉のように、俺はちゃんと向き合うよ」
「はい。俺に気持ちは揺るぎませんから」
「ああ、俺もだよ」
間もなく海里の結婚式がやってくる。その前に自分達の関係を岩瀬の両親に報告する決心は付いている。
揺るぎない心を持っているつもりでいても、何処か不安を隠せずにいた。
そんな石川の心を判り、岩瀬は自らの思いを知らせようと可憐な花を咲かせるこの場所へ連れてきたのだ。
その思いに勇気を貰い、石川はどんな花にも負けない微笑みを浮かべるのであった。
2007.03.04 UP |