- そのままの貴方でいて -
       ともっち【24/7】 04.22 UP
4/24(晴)

昨日の大雨が嘘のようないい天気で―

「悠さん!お早うございます&お誕生日オメデトウございます!」
「…う…」
「悠さん! おーきーてーくーだーさーいー」
「…ん… 基寿…何時…?」
「えーっと…7時です。」
「…早い…」
「そんなことないですよ!これからお出掛けなんですから!!」
誕生日の本人よりも岩瀬の方がウキウキとしている…

結局。昨夜は眠ったのも遅かった。

「…誰のせいで起きれないと…」
「う…。ゴメンナサイ…つい…」
「つい…?」
「いえ!その…悠さんが可愛かったもので… 辛いですか…?」
「あたりまえだ。」
「…怒ってます?」
「…」
「悠さん?」
「怒ってない…」
「え?」
「…怒ってなんかない。でも」
「でも…?」
「起きれない。」
「えぇ!? そんなに激しくしたつもりは無いんですが…」
「…あと一時間…」
モゾモゾと石川は布団に包まった。

「…悠さん… もしかして眠いだけじゃ…?」
岩瀬は恐る恐る布団から出てこない石川を覗き込んでそう呟く。

実際、石川は体はダルイが起き上がれないほどではない。が。
『…基寿に付き合っていたら体がもたない…』
と、思わなくも無い…
それに、今日は自分の誕生日で。
岩瀬が念入りなプランを立ててくれている。ことも解っているが…
もう少し、この他愛の無い会話を楽しみたかった。

「悠さん?…寝ちゃいましたか?」
岩瀬は最早、起こそうとは思わないのかコッソリと聞いてくる。
「…寝てない…」
「うわ!…吃驚した…」
「…ウルサイナー。」
「悠さん…」
すっかりショゲた岩瀬を布団の合間から見て。 クスリ、と笑う
「嘘に決まってるだろう?それより…」
石川はガバッと布団をめくり― 岩瀬を絡め取りベットへと引きずり込む。

「ちょっ!悠さん!?」
「驚いた?」
「…はぁ… どうしたんですか?」
「んー… 楽しいな。と思って…」
「…?」
「自分の誕生日に基寿と一日こうして過ごせるかと思って」
ニッコリと最高の笑顔でそんな事を言われて、嬉しくない奴がいるだろうか?
いや。いない。

「悠さん!」
岩瀬は石川をギューっと抱きしめる。

「…こらっ!これから出掛けるんだろう?」
「そうですけど…」
「え!? ちょっ!基寿!!」
「チョットだけ。」
「いや…そうじゃなく!こら!!離せっ」
「悠さん…しーっ。」

岩瀬は石川の頬にそっと触れ…キスを落とす。
石川の言葉も岩瀬の中に消えて行き―

結局、二人が寮を出たのは昼前になっていた…


  ++  ++  ++  ++


「…で?何処に行くんだ?」
少しご機嫌ナナメな石川の口調はキツイ…
運転をしながら岩瀬は怒られた犬のように凹んでいる…
そんな岩瀬の様子をジーっと見て…
弾けた様に石川が笑い出す。

余りにも突然に笑われたので岩瀬は驚いた。
「…悠さん…?」
「くっくっくっく」
肩を震わせて笑う石川に、訳が解らずホトホト困り顔の岩瀬。

「悠さん…笑いすぎ…」
「ゴメンゴメン…でも基寿が… くっくっく…」

石川の笑いが収まるのを待って岩瀬は再度問いかけた。
「一体何がそんなに嵌ったんですか?」
「あぁ… 基寿が何だか大型犬みたいで…」
微妙に肩を震わせながらも石川は答えた。

その答えに岩瀬は盛大な溜め息をつき―

「…犬…ねぇ…」
「うん。犬。…くっくっく…」
「…この犬は飼い主が大好きなんですよ。だからイッパイかまって下さいね!」
「…あぁ。きっと飼い主もこの犬が大好きだぞ?」
「両思いですね」
「そうだな。」

車の中でもそんな会話を繰り広げながら、岩瀬の運転する車は高速をひた走る。

「基寿… 何所に向かってるんだ?」
「秘密です。着いてのお楽しみ!」

岩瀬はとても嬉しそうに答える―
こういう時、岩瀬は本当にイキイキとしている。

そんな岩瀬を見ていて、ふと前に聞いた事を思い出す。
確か、付き合いだして、まだ最初の頃―

『人を楽しませるのが好きなのか?』
『…それもそうなんですが…』
『違うのか?』
『正確には、“悠さんを楽しませる”のが好きなんですよ。』
『…なんで?』
『なんで?と聞かれても…。楽しそうにしている悠さんを見るのが好きだから…』
『…お前は…?』
『え!?』
『…岩瀬、お前はそれで楽しいのか?』
『はい!物凄く楽しいですよ?だって好きな人が楽しいと自分も楽しいでしょ?』
『そんなものか?』
『そんなものです!だから悠さんは命一杯楽しんでくださいネ!!』
『…あぁ…』

その時は正直よく解らなかったが… 
今では岩瀬の言っていた事がよく解る。
確かに、岩瀬が楽しそうにしていると、自分も楽しいし、嬉しい。
そんな事を思いつつ、笑っていると。

「悠さん、楽しいですか?」
「あぁ。勿論」
「よかったです。でも、まだまだこれからですよ?」
「うん。楽しみにしてる。」
「はい!期待しててくださいね!!」
「あぁ。」
「もう直ぐですから。」

二人を乗せた車は高速を降りるところだった―


  ++  ++  ++  ++


「着きましたよ。」
「ここか?」
「はい。この公園内が凄いんです!」

岩瀬はそう言って、『何が凄いのか』教えないままニコニコとしている。

「…それも見てのお楽しみ?」
「そうです。じゃあ、行きましょう!」

いつの間にか岩瀬の右手にはバスケット。左手には石川の手を納めて歩き出す。

「ちょっ!基寿!!」
「大丈夫ですよ!ここまで来て知り合いとかいませんよ?それに…」
「それに?」
「折角の誕生日なんですから。ね?」
「…実は繋ぎたいだけ。じゃないのか?」
「バレマシタ?」
「…基寿…」
「…悠さんは?繋ぎたくないですか?」
「…繋ぎたいに決まってるじゃないか…」
「でしょ!」
「…まったく…子供みたいだな…」
「犬の次は子供ですか…」
「あははは。そうだな!子供!!」
「こんな大きな子供はいませんってば。」
「そうだけど…。あはは。」
「もぅ…さっきから悠さん笑ってばっかりだし…」
「…楽しいから…」
「え?」
「…基寿とこうして、他愛のない会話が楽しくて…幸せで…」
「悠さん…」
「だから…笑ってるんだ。」
「じゃあ。これからもズーッと笑って行きましょうね!」
「…そうだな…これからも。」
「はい。 あ!着きましたよ!!ほら。」
「わぁ… ホントだ…凄い…」

石川達の目の前には一面のチューリップが咲いていた。

「…これだけあると、壮観だな…」
「ですよね…」
「…基寿は知らなかったのか?」
「実はネットで知ったんで…。これほどとは…」
「そっか。」

暫し、二人で佇んでいると―

ぐぅぅぅ。

「…ぷっ…っくっくっく…」
「…悠さん…だから笑いすぎですってば!」
「だって…!!お前!!それはないだろう!!」
「そんな事言われても…。お腹すきましたよ…」
「そうだな…ろくに食べてないもんな…くっくっく…」
「…さぁ…ご飯ご飯…」

盛大にお腹を鳴かせた岩瀬はせっせとシートを広げている。
石川もそれを手伝い… 
シートの上にはサンドイッチやら、から揚げやら、お握りなど色とりどりな食べ物で埋め尽くされた。

「基寿…どうしたんだコレ?」
「ふっふっふー。実は早起きして作ってきました!」
「え!?」
「…と言っても、ほとんど岸谷さんが作ったようなものですが…」
「そうなんだ…。でも有り難うな。」
「どういたしまして。さぁ!食べましょう!!」
「うん。」

空はいい天気。
隣には大好きな人。
目の前には美味しい料理。

「…本当に思い出に残る誕生日だな…」
「そうでしょう!」
「…基寿…」
「まぁまぁ。あ!から揚げ食べました?それは俺の自信作なんですよ!!母さん直伝ですから。」
「そうなのか?」

石川は、から揚げを一つ掴み。パクっと口に入れる。
モグモグモグ…

「美味しい。」
「でしょ!俺も好きなんですよ!このトリカラ!」
から揚げを摘んで美味しそうに食べる岩瀬の姿に、思わず笑みがこぼれる―

「あ!また笑ってる!!」
「うん…。本当に楽しいな…。ありがとう。基寿」
お礼の言葉と共にふんわりと笑む姿は可愛くて―

「…悠さん一つお願いが…」
「なんだ?」
「えーっと…その… 勝手だとは解ってるんですが…
 あまり他の人の前ではそんな風に笑わないで下さい…」
「??」
「…解らなければいいですが…」
「基寿?」
岩瀬の言っている事がよく解らない石川は首を傾げるばかりだ…

そんな石川の様子に溜め息をついて。
『まあ…こんな所が可愛いんだけれど…。』
そして、ニッコリと笑い。

「…そのままの貴方でいてくださいね…悠さん」
「…なんだそれ?」
「んー。悠さんはそのままが一番素敵だなって!再確認でした。」
「ばか///」

青空の下。
他愛ない会話。
恋人と、一緒にご飯。

いつもと変わらないけれど、それは思い出に残る誕生日に。