「隊長!もう上がり?」
「あぁ。お疲れ様。宇崎」
「…そう言えば。明日は誕生日じゃ… チョット早いけど。オメデトウ石川」
そう言ってニッコリと笑う宇崎に照れた笑顔を見せながら、石川は。
「ありがとう。」
「じゃあ。お疲れ様!又明日」
「宇崎も仕事、ほどほどにな!」
「うん。じゃあね。」
パタパタと去っていく同期の姿を見ながら…
石川はお祝いを嬉しく思っていた。
『こうして無事に誕生日を迎えられるのも基寿や皆のおかげだな…』
今、ここにはいない岩瀬の姿を思い浮かべ石川は笑みを浮かべた。
岩瀬は今日一日だけ他の人間のSPにと。借り出されていた―
『まぁ…行くまでが大騒ぎだったがな… あと少しで戻ってくるか…』
石川は腕時計を見て時間を確認する。
岩瀬が戻ってくる予定時間は18:00。
今は17:00だからあと一時間ほどか…
石川はきっとダッシュで帰ってくるであろう心配性な恋人を思い浮かべ苦笑した
「さぁ。部屋でおとなしく待ってるか…」
言葉の内容とは裏腹に。石川の顔は幸せそうに微笑んでいた…
*** *** *** ***
「…遅い…」
石川はイライラと時計とニラメッコをしていた―
時刻は21:00を少し回ったところ。
三十分おきには岩瀬から電話が入ってくる…
―もう少しで帰りますから!!悠さん御免なさい!―
コレを5回も聞かされれば幾らなんでも、腹が立っても仕方がないと思うのだが…
かかってくる電話の内容が余りにもアレだったので…
石川は怒るに怒れないでいた―
最初は18:00に携帯がなった。
「悠さん!お疲れ様です!直ぐ帰りますからね!」
「あぁ。待ってるよ」
「はい!」
次は18:25.
「…すみません… 悠さん 帰れなくなりました」
「何かあったのか?」
「いえ… 突然、送別会だー!って… でも、断って帰りますから!」
「いや… 折角誘ってくれたんだから、顔ぐらい出してこいよ!」
「でも…」
「たまにはイイじゃないか?行ってこいよ?」
「…じゃあ、顔だけ出して直ぐに帰りますから!御免なさい!」
「気にするな。じゃあな。」
「はい。あ!一人で外に出ないで下さいね!」
「解ってるよ… じゃあな。」
三回目は19:02
「…悠さん… 帰れないです… なんなんですか?ここの人たちは!?」
「基寿? どうかしたのか…?」
「…凄いです… 帰ろうとしたら何かしらの妨害が!」
「…は?」
「今だってやっとの思いで、電話できたんですよ…」
「基寿?」
「…もうチョット待ってくださいね! 何とか脱出しますから!」
「基寿?」
「あぁぁぁぁ!邪魔しないでくださ…」
そこで電話が切れた―
「…脱出…? 送別会だよな…」
四回目は19:36
「悠さん… 怒ってませんか?」
「いや… それより脱出って?」
「いえ…あの…皆の妨害が…」
「妨害?」
「いえ、それより今度こそ帰りますから!」
「あぁ…」
「ホントですよ! って!また!!」
又しても電話が切れる…
「一体どうなってるんだ…?」
五回目は20:04
「…悠さん…」
「基寿?」
「…もう…嫌です…」
「どうかしたのか?」
「…今度こそ!絶対に!帰りますからね!!」
「あぁ…」
「待っててくださいね!」
六回目は20:29
「悠さん!やっと抜け出せました!即行で帰りますから!」
「あぁ… 待ってるよ」
「はい。」
六回目にしてやっと本当に帰ってこれるようになったらしい…
「一体どんな送別会なんだ?」
石川には疑問が残るばかりで―
*** *** *** ***
九時半近くになってやっとの思いで帰ってきた岩瀬は。
部屋に入るなり石川をギュッと抱きしめた―
「遅くなって御免なさい… 怒ってます?」
「…おかえり基寿」
「怒ってないんですか?」
「うーん…」
「…本当に御免なさい。なんでもしますから!」
「……」
「悠さん…?」
「何でもするのか?」
「えぇ…」
「本当に?」
「勿論!」
「何でも?」
「…ご期待に添えますか?」
「うん。基寿じゃないとダメ。」
「…悠さん…」
「日付が変わるまでキスして。抱きしめて。」
そっと石川は囁いて、岩瀬に抱きついた
「解りました。あと…二時間半ですね。覚悟してください!」
「基寿こそ…。あ!キスだけだぞ!それ以上はナシで。」
「えぇぇぇぇぇ!!!」
そこには確信的な微笑の石川と。
すっかりショゲた岩瀬の姿があったとか…
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