- ずっと隣にいて -
相和稜【Peach Brand】 04.22UP


穏やかな昼下がり。

今日は、すこぶる天気がよくて、部屋にいてはクサってしまうとばかりに、
岩瀬と二人でお弁当を持って公園に来ている。
人影もまばらで、自分達を見てるのは太陽だけという絶好の穴場だ。
調度いい具合の木陰を見つけて、レジャーマットを引いて二人で足を投げ出し寛いだ。

「風が心地いいですね」
「ああ」
「悠さんとピクニックに出るのは二度目ですね♪」
一度目は、石川が記憶喪失の時だった。
事故で記憶が後退して、17歳までの記憶しかなかった。
「あんまり覚えてないけど、楽しかったことだけは覚えてる」
「悠さん・・・ 」
記憶を失っていた時の記憶は、薄っすらとしか覚えていない。
ただ、岩瀬の側に居たかった。
一緒にいるのが楽しかった。

四月の下旬だというのに、今日は5月並の陽気で爽やかな風が吹いている。
穏やかに木や草が心地よい風に吹かれて、石川はうっとりと目を細める。
 
「昨日までの忙しさが嘘みたいな」
四月に入って、目の回る忙しさだった。
いつもの新人研修。
体力検査に、新システムの導入。
おまけに、春の陽気に誘われてか、頻繁にテロリストの襲撃が後を絶たなかった。

「そうですね〜、4月に入って20日も働き詰めでしたしね」
「そんなに・・・・・だったか?」
「そうですよ、4月に入っての最初の休みは、
 テロリストが夜通し居座ったため、事後処理に追われて休めませんでした」
「そうだったっけ?」
「それに、次の休みはどこにも行かず、部屋でゆっくりしようと思って、
 まったりしていた時に無線での呼び出し・・・・・」
「はははは・・・・そうだったな」
「ゆっくり悠さんと話する暇もなかったですからね」
「そうだな」
寮の部屋に帰って来ては、風呂に入りベッドに倒れ込むようにして寝ていた。
「だから、悠さんの誕生日でさえちゃんと祝えなくて・・・・」
「いつもこうだから仕方ないだろう・・・・」
「でも、プレゼント渡すのが精一杯でした」
「俺は、俺でさえ忘れてるのに、お前が覚えてくれたことが嬉しい」
石川は心から思う。
いつだって、岩瀬は石川の嬉しいことをさり気なくしてくれる。
「だって、あなたが生まれた大事な日ですよ!!覚えているに決まってます」
「誕生日なんて、子どものように嬉しい事でもないけれど、
 お前が大事にしてくれるから特別な日なんだと思う」
「あなたが生まれた日に感謝します」
岩瀬は、誓いのようなキスを手のひらにする。
「基寿・・・・・」
「改めて、お誕生日おめでとうございます」
「ありがとう・・・・・」
石川を引き寄せて、ぎゅうと抱きしめる。

辺りをキョロキョロ見渡し、
ゆっくり息を飲んで今まさに唇が触れそうな瞬間に犬が石川に激突した。
「え??」
「わぁ!!」
そこにはビーグル犬の子犬で、愛らしく尻尾を千切れんばかりに振って石川を見ている。
「お前どこから来たんだ?」
石川が話しかけると、子犬はワンと一声鳴いて石川の顔を舐める。
「わっ!!」
子犬は嬉しそうに石川の顔中を舐めまくる。
「ああ!!こら!離れろ!俺がするはずだったキスを悠さんにするんじゃない!!」
子犬を石川から無理矢理剥がし、岩瀬は本気で怒っている。
「こらこら!!子犬と本気で喧嘩しない!!」
「だって〜こいつが邪魔するから!!」
岩瀬の腕の中で暴れている子犬は、岩瀬の腕を振り切って逃げて行ってしまった。
「ああ〜〜、逃げたじゃないか!!」
そう、石川に残念そうに言われ岩瀬は渋々誤った。
「すみません・・・・」


持って来たお弁当を広げて、二人で楽しくランチを楽しむ。
陽気な天気と、爽やかな風が二人の間を駆け抜ける。

「こうやって、たまには外でのんびりするのもいいでしょう?」
そう言って、岩瀬は覗き込んでくる。
「朝、弁当作るのに早起きしたけどな」
「あ・・それは・・・でも、ちゃんと手伝ったじゃないですか!!」
「ダグと一緒になって、手伝ってるのか邪魔してるのか分からなかったぞ」
「あ・・・あれは、ダグがですね・・・・」
必死になって言い訳をする岩瀬が可愛くて、石川はくすくす笑い出してしまう。
「悠さん?」
「いや、お前のおかげでのんびり出来て嬉しいよ」
石川の機嫌はすこぶるいい。
「いい天気だし、お腹一杯になったら眠くなりましたね・・・・・」
ちょっとだけ、欠伸をしながら岩瀬は言う。
「それじゃ、ちょっと横になるか?」
岩瀬は石川を見つめ何か言いたそうだ。
「何?」
「膝枕してもらえます?」
岩瀬は一応、遠慮がちに囁いた。
途端に真っ赤になる石川は、それでも素っ気無く答える。
「・・・・//す・・好きにすれば・・・」
「わ〜〜〜〜い♪」
そう言うなり、岩瀬は身体を倒して、石川の膝の上に横になった。
そして、首だけ動かして石川に話しかける。
「悠さん、きつくなったら俺も変わりますから・・・・・きっと眠れないでしょうけど」
「どうして?」
「俺は、悠さんのSPですから」
「お前・・・プライベートの時くらい、SPを捨てて俺の恋人になってもいいだろう!!」
真っ赤になって叫ぶ石川は可愛い。
「悠さん・・・・」
「///だから、満喫しろ」
「はい!!」
そう返事をした岩瀬は、思いっきり破顔して石川の膝の上に嬉しそうに笑っている。

石川は、こんなにのんびりしたのは、いつ振りだろうかと考える。
確かに、仕事は忙しいが、遣り甲斐のある仕事で充実している。
振り向くと、いつもそこに岩瀬がいて、柔らかに微笑み返してくれる。


ふと、不思議そうに見ている岩瀬と眼が合った。
「何だ?」
聞き返すと笑顔全開で、見てるこっちまで嬉しくなるような顔をして言う。
「こんなのんびりした時間を、悠さんと過ごせるなんて
 俺って幸せだなっと思いまして・・・・・・・・」
岩瀬は、石川が照れてしまいそうな台詞をしれっと言う。
「お前な・・・・////」
「だって、悠さんすっごく綺麗なんですもん」
岩瀬の素直な感想だ。
「あのな・・・・・////」
石川は困った顔をして、それでも恥ずかしくなってそっぽを向く。
「本当のことですよ」
「馬鹿・・・・」
岩瀬は、石川の膝の上でゴロゴロして甘えている。
石川は頭を撫でてやる。
「悠さん」
「何だ?」
「愛してます」
「・・・・・・///何だ?急に?」
「何となく今言いたい気分なんです」
岩瀬は目を細めて、嬉しそうに囁く。
「だから、いつまでも俺の傍にいてくださいね」
「・・・・・うん」
小さいけれども確かな返事が石川から返されて、岩瀬は起き上がりぎゅうっと抱きしめる。
おずおずと石川の手が岩瀬の背中に回されて行く。
「悠さん、これからもよろしくお願いします、ずっと傍にいてくださいね」
「ふふふ・・・何だか変な感じだな・・・・まるで・・・・・」
「プロポーズみたい?」
岩瀬は石川の言いかけた言葉を、すんなり囁いた。
「ばっ・・・///馬鹿!!」
岩瀬は、今度は邪魔が入りませんようにと祈りながら、石川にそっと唇を寄せた。


こんな普通の休日の過ごし方に、石川は感慨深く微笑む。
岩瀬はほっとけば何日でも仕事をしていそうな石川に、
さり気なく気を遣いゆったりした時間を提案してくれた。
そんな日もたまには必要で、石川には嬉しかった。
 
岩瀬と共に過ごす時間は、穏やかでいつも愛が溢れている。
だから、いつでも傍にいて欲しい。
いつでも、石川の隣で笑って欲しい。
ずっと隣にいて欲しい。
穏やかな日差しと、陽気に照らされて薄っすら頬が赤くなってしまったのは、
太陽のせいばかりではないみたいだ。