Night+Flight


カレンダーを見て岩瀬がポツリと呟いた―

「・・・結局、無理でしたね・・・」
「なにが?」
「温泉+雪」

そう言ってソファへと座る石川を振り向く。

「あ・・・あぁ・・・そうだな」
「・・・すっかり忘れてましたか?」
「えっ・・・」

岩瀬にジッと見られ、石川は居心地悪そうに座りなおし―小さく頷いて「ゴメン・・・忘れてた」と謝った。

「いえ・・・いいんですよ」
「基寿・・・」
「だって、悠さん。断ることなんか出来ないでしょう?」
「・・・うん・・・」

本来ならば、今年最後の休暇が24・25日と続くハズだったのだが・・・
委員会から急用を申し付けられ、休暇の変更となったのだった。

「まぁ、悠さんのそんな所も好きなんで。旅行はまた今度行きましょうね!」
「・・・ゴメン・・・有り難う基寿」
「そんな風に謝らないで下さい・・・あ!」
「?」
「換わりと言ってはなんですが・・・これから散歩に出かけませんか?」
「これから・・・?」
「はい。・・・ダメですか?」
「いや・・・いいけど」
「じゃあ。行きましょう!あ。寒いですからイッパイ着込んで下さいね!」

まるで子供のように扱う恋人に笑って・・・石川はダウンジャケットを羽織り出かける準備をした。

 + + +

すっかり夜になった外の空気は、昼間とは違う寒さをまとっていて―
吐く息の白さに、深まる冬を感じ取る。

「寒くなったな・・・」
「そうですね。でも、空気が澄んでいるから夜空が綺麗ですよ」
「・・・本当だ・・・凄いな」
「ね!都内でもこれだけ綺麗に見えるんですから・・・田舎の方に行けばモット綺麗に見えるでしょうね・・・」

目をキラキラとさせ夜空を見上げる岩瀬に、石川は立ち止まって問いかける―

「・・・やっぱり見たかったか・・・?」
「え?・・・あぁ・・・そういう訳ではないですが・・・」
「基寿?」
「・・・たとえモット綺麗な夜空を見ても、隣に悠さんがいないと意味が無いんで・・・今、この時で十分ですよ」
「ばっっ///」

ニッコリと微笑んで、恥ずかしいことを言う岩瀬に、二の句が告げず・・・石川は真っ赤になって黙り込む。
そんな石川に岩瀬は手を差し出し―

「悠さん!手、繋ぎませんか?」
「え・・・!?」
「大丈夫ですよ!ここまで暗いと解りませんから・・・」
「・・・うん」

そっと指を絡め、繋げた手は暖かくて・・・寒さで凍えた体に灯りがともる―

「暖かいな・・・」
「はい。燃えてますから!」
「?」
「悠さんへの愛に!」
「・・・ホント恥ずかしいヤツだな・・・」
「えぇ?本当の事なのに・・・悠さんは俺への愛に燃えてませんか?」
「・・・俺も・・・」

とても小さな答えは風に流され、岩瀬の耳へは届かない。
ん?と小首をかしげ、覗き込んだ岩瀬へ、石川はソッポを向いてそっけなく答える―今度はちゃんと届くように・・・

「・・・俺も・・・だよ・・・」
「悠さんvv」

思いがけない石川からの返事に、満面の笑みで岩瀬は抱きついた。

「ちょっ・・・基寿!!」
「だって!そんな可愛い事を言われて我慢なんて出来ませんって!!」
「・・・こらっ!離せ・・・」

ジタバタともがく石川に岩瀬はそっと囁やく・・・

「キス・・・してもいいですか・・・?」
「もとひ・・・」

返事を待たずに口付けられ―離れた岩瀬を軽く睨む。

「・・・待てって言ってるのに・・・」
「すみません・・・待てませんでした」
「・・・・・・」
「嫌でした・・・?」
「・・・嫌じゃないから困るんだろう・・・」
「!!」

再び、ギューーっと抱きしめられ、石川は慌てる・・・

「こらっっ!基寿!!」
「すみません・・・でも・・・嬉しいです・・・」
「・・・うん・・・」

暫く、抱き合ったままでジッとしていたが。

「・・・くしゅん」

石川の小さなクシャミがきっかけで、体を離す。

「すみません!!寒いのに・・・」
「大丈夫だって」
「でも・・・早く帰って温まりましょう?」
「そうだな・・・帰ろうか・・・」
「はい」

再び歩き始めた二人は寮が見える所まで手を繋いだままで―
そして・・・

「基寿・・・また散歩しようか」
「悠さん?」
「また、夜空を見に・・・散歩しよう」
「はい。また手を繋いで、出かけましょうねvv」
「・・・うん」

そっと微笑んだ姿をは岩瀬にだけ向けられていた―




クリスマスまであと3日―







2006.12.22 UP