Love is the mirage …


「れーの」
「クロさん、どうかした?」
「・・・なにか用事がないと、お前に話しかけてはいけないのか?」
「そんなことないけど・・・」
「・・・まぁいい。れの、クリスマスには勿論、新作ケーキが出るんだろうな?」

ニッコリと、誰もが振り向く微笑でそんな事を聞いてくるのは自分の恋人(甘味大王)で・・・
『その微笑に何時も騙されてるんだよな・・・』とか、思いながらも何時もと同じ答えを返す。

「あるけど・・・まだ、試作段階だし・・・クロさんに渡せるほどの出来でもないよ?」
「今晩、待ってるから」
「え?クロさん!? だから、まだ・・・」
「いいから。持って来い」
「えぇ・・・!!」
「じゃあな」
「ちょ・・・クロさん!!」

人の話を全く聞かず、自分の言いたいことだけ言って、去っていくクロウの後姿に浅野は叫ぶが・・・完全無視で、クロウは食堂を出て行った―

「だから・・・まだ出来てねーっつうの・・・」

浅野の呟きに、食堂の主である岸谷が背後から突っ込んだ。

「だから、夜までに完成させろ・・・ってことだろう?」
「チーフ!・・・いやいや、無理だから・・・」
「・・・そこはお前の頑張り次第だな」
「えぇ・・・」
「ま。ガンバレ」
「そんな簡単に・・・」
「はは。他人事だからな。でも、クロが機嫌を損ねると周りにも被害が出るから・・・そこのところよーーく覚えて置けよ?」
「チーフ・・・」
「で。そろそろ夕食の仕込みの時間だからな」
「チ〜フ〜・・・」

さり気なく、トドメを刺された気がするのは自分の『被害妄想』ではないはずだ。
『皆して・・・言いたいことだけ言って去ってくんだもんな・・・』
浅野は魂が抜けるほどの溜息をついて厨房へと戻っていった―

 * * *

戦場のような夕食時が終わり、やっと一息つける―という頃。
クロウが食堂へとやってきた。そして、カウンターへとやってきたクロウに岸谷は・・・

「クロウ・・・あまり浅野を苛めるなよ?」
「岸谷さん・・・そう見えますか?」

ニコリと微笑んで切り返すクロウに岸谷は苦笑だけで答えて―

「・・・解りにくいんじゃないのか?」
「それは相手が悪い事で。俺は十分、解りやすくしてますよ?」

何処までも平行線を辿りそうな会話に岸谷は溜息をついて。

「・・・まぁ、程ほどにな・・・」
「はいはい。で、れのは?」
「まだ、試作中だ。呼ぶのか?」
「いえ・・・今はいいです。あ。来たことも黙っておいてくださいね。潤も―」

クロウはチラリと隣で話を聞いていた池上にも釘を刺す。それに二人は笑って答え―

「・・・あぁ」
「はい」

じゃあ。と、ヒラヒラ手を振り、クロウは食堂を後にする。その姿を見ていた池上と岸谷は苦笑を交し合い―

「クロさんは・・・解りにくいですけど、解りやすいですよね・・・」
「潤・・・クロウの事をよく解ってるな・・・」
「まぁ・・・岸谷さん程ではないですが・・・」
「はは。まぁ、付き合いが長いからな…浅野もソコの所が解っていればいいんだが・・・」
「うーん・・・でもこれって『第三者』の立場で見ているから、解るかもしれませんが・・・本人だと、なかなか解らないかもしれませんね・・・」
「そうかもな・・・」

岸谷と池上は未だ厨房で格闘中の浅野の後姿をそっと見守る。そして―

「まぁ、本人が気付かないとダメな事だろうから」
「そうですね・・・でもアドバイスぐらいは出来るんじゃないですか?岸谷さん」
「・・・潤は優しいな」
「ふふ・・・誉めても何も出ませんよ?」
「潤・・・」
「浅野にもクロウさんにも、幸せになって欲しいですからね・・・」
「そうだな・・・ところで潤・・・」
「なんですか?」
「俺の幸せはお前が握っているんだが・・・」
「岸谷さん・・・」
「仕事も上がりだろう?部屋で待っていてくれ―あと少しで上がるから」
「はい///」

うっすらと赤くなって頷く池上に微笑んで。岸谷は厨房の奥へと戻っていった―

 * * *

池上がチーフルームで寛いでいると、軽くノックの音がした。

「誰かな?」
「チーフ居ますか?」

池上がドアを開けようとすると、浅野の声がして・・・

「浅野?」
「お。池上・・・チーフは?」
「いま、シャワーを・・・」
「そっか・・・」
「岸谷さんに用事?待ってる?」
「いや。たいした用事じゃないから・・・」
「そうなの?」
「うん・・・まぁいいや。じゃあ。お疲れ様!あ。コレお裾分け」

はい。と手渡されたのは、チョコレートがかかったケーキが二つ。
クリスマスらしくホワイトチョコがベースになっていて、とても美味しそうだ・・・

「試作品第一号。チーフと食べてみて?で。感想なんかもくれると嬉しいから」

じゃあな。と帰ろうとした浅野に池上は思わず声を掛けた―

「あ。浅野・・・」
「ん?どした?」
「・・・えと・・・」
「?」

池上は声を掛けたものの、どういっていいか分からず・・・口ごもっていると、浅野が不思議そうに近寄ってきた。

「池上?」
「あのね・・・クロさんの事なんだけど・・・」
「え・・・?クロさん?」

池上から意外な名前が飛び出し、浅野は驚く。そして―

「クロさんの事って・・・なに?」
「あのね・・・余計なお世話かもしれないけど・・・」

とつとつと言葉にする池上に浅野は真剣な表情で聞き入る。

「あの・・・クロさんはちょっと表現が解りにくいかも知れないけど・・・」
「・・・うん・・・」
「その・・・浅野の事、大事に思っていると思うよ・・・?」
「・・・なんだ!その事か!」
「浅野?」
「いやー。池上が改まって言うから、何のことかと思ったけど・・・」
「じゃあ・・・」
「うん。大丈夫。解ってるよ・・・あれがクロさんなりの愛情表現だって・・・」

どこか恥ずかしそうに話す浅野に池上は微笑んで―

「そっか・・・ゴメンね?お節介だったね・・・」
「いや。そんな事無いって・・・実際、解り始めたのなんかも最近だし・・・」
「え?」

しまった・・・という顔をして、浅野が池上を見る。そして―

「あ・・・っと。今のはオフレコで。」
「・・・うん、解った」
「じゃあ。これ以上クロさん待たすと大変だから・・・」
「あぁゴメンね?引き止めて」
「だから・・・謝らなくっていいって。じゃあ、それ、チーフにも渡しといて!」
「うん。じゃあ」
「おやすみ!」
「おやすみ」

軽い足取りで寮へと帰っていく浅野を見送った―



futariへ続く・・・



クリスマスまであと9日―





2006.12.16 UP