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年末時には、通常業務+αされるため普段にも増して忙しい。
そしてテロリスト達も漏れなくやってくる・・・

今日も今日とて。
テロのいらない置き土産(事後処理)の為に、官邸警備隊副隊長の尾美と外警班長の康は大幅な残業を強いられていた。
今回は玄関先で爆発し、ガラスが吹っ飛んだのだが―その『後片付け』をしていた時の事。
ふと、康がぼやく・・・

「昔の人はよく言ったものだな・・・」
「康?・・・突然、何言ってるんだ?」
「え?『忙しい』って言う字は『心を無くす』って言うじゃないか・・・」
「・・・さっさと片づけを終わらせろ!!」
「ほら・・・尾美だって忙しいとさ、イライラするでしょ?」
「・・・私をイラつかせているのは、テロもだが・・・今現在は康!お前にもだ!!」

ビシッッ!と康を指差し、尾美は叫ぶ。
康は、そんな尾美に笑って―

「・・・つれないなー。エミュ・・・」
「エミュ言うなっ!!!」

康と尾美が『何時もの言い合い』を始めたのを隊員たちは苦笑を堪えて聞いている・・・
そんな中、康がガラスの破片を手にして―

「あっ・・・・」
「康?破片で切るなよ?」
「・・・もう遅い」
「・・・は?」
「はは・・・切った」

そう言って苦笑しながら持ち上げた右手の人差し指はザックリと切れていて―見る間に血が溢れてくる・・・
そんな、結構な怪我にも拘らず。康は「あーあ・・・」と言って、そのまま回収作業を続けようとしていて―
尾美は康を見て、叫ぶ。

「康!流れてるぞ!!」
「へ?」
「血!!・・・今すぐ医務室で治療して来い!!」
「・・・大丈夫だって。舐めときゃ治るよ?」
「・・・お前は『野生の王国』で育ったのか?」
「は・・・?」
「そんな原始的な治療でなく、直ぐに現代医療で治療して来い!!」
「・・・酷い言われようだな・・・」

たはは。と笑いながらも、康は作業を続ける。
そんな康に、尾美は焦れて―

「康!直ぐに行けって・・・」
「だって、この時間じゃ誰もいないよ?医務室・・・」
「自分で出来るだろう!!」
「利き手だし。無理かなー?」

のらりくらりと言い訳を並べて、医務室に行こうとしない康に、尾美は・・・

「康・・・ココはいいから、行って来い」
「・・・じゃあ、尾美が治療してくれる?」
「・・・は?」
「そんなに治療させたいなら、尾美が治療してよ」
「・・・康・・・お前・・・」
「はい決定!行こうか!尾美」

ニコニコと微笑んでいる康に、尾美は諦めたような深い溜息をついて―

「・・・サッサと行くぞ・・・康」

そう言って、後も見ず。尾美は医務室へと歩き出す・・・そんな尾美を追って康も歩きだした。

 * * *

二人が医務室へつくと、やはり誰もいなくて・・・
尾美は怒ったような表情で治療器具を棚から取り出した―
そして。

「・・・お前は馬鹿か?」
「え?」
「破片で切った怪我は細菌が入りやすいんだぞ?なのに『舐めときゃ治る』って・・・治るわけないだろう!」
「尾美・・・」
「ホントにお前は・・・」

尾美のお小言を聞きながらも康は笑っていて―

「・・・康・・・聞いているのか?」
「聞いてるって。」
「お前は怒られている事が解っているのか?」
「うん。有り難う、尾美」
「・・・は!?なんでお礼なんだ・・・?」
「え。だって、尾美は俺の事を心配してくれたから、怒ってるんデショ?」
「・・・・・」
「だから、『ありがとう』尾美。やっぱり尾美は優しいね」

ニコリと笑って、礼を言う康に尾美は・・・

「ホント馬鹿だな・・・康」
「え?なんで・・・」
「私は優しくなんかない・・・」
「尾美・・・?」

不審そうに見上げる康に、尾美はニッコリ笑って消毒液がタップリとついた脱脂綿を持ち上げ―切った指先へとつけた。

「イタッッ・・・!!!」

康の反応を満足そうに見て、尾美は再びニッコリと笑う―

「だから、言っただろう?私は優しくないって」
「おみーー・・・」
「大体、お前は迂闊すぎるんだ・・・」
「・・・尾美にだけは言われたくない」
「康?」

スッと立ち上がった康に、尾美は手を取られる・・・そして。

「迂闊っていうのは、こういう事だよ?尾美・・・」
「・・!!・・」

掠めるようなキスを送り、康は体を離す―

「解った?尾美」
「・・・・康っっ!!!!」
「あはは。怪我の治療代ってことで」
「・・・・いるかっっ!!!」
「ホント、つれないよねー。エミュ」
「・・・エミュって言うなっっ!!康!!!」
「・・・じゃあ・・・佑」
「///下の名前で呼ぶなっっ!!!」
「なんで?ファーストネームで呼ぶのは恋人の身分証明みたいなモノでしょ?キスもだけど・・・」
「///恋人って」
「あれ?違った?」
「・・・・違わないけど・・・」
「じゃあ、いいじゃん。」
「・・・よくないっっ!!大体今は仕事中だろう!?」
「あはは。そうだね」
「笑い事じゃない!!」

照れ隠しの為に、怒ったような態度を取る可愛い恋人に、康は微笑んで―

「佑・・・クリスマスだけど・・・」
「あ。私もお前も仕事だから。」
「・・・はっ!?」
「だから仕事」
「・・・なんで!?休暇届には休みって・・・」
「あぁ。書き換えた」
「はっっ!?」
「どうせ、何処かへ行くあてもないだろう?だから・・・」
「おーみーーー!!」
「ん?不都合があったのか?康」
「・・・(不都合も何も・・・)」

ガックリと肩を落とした康に、分かっていない尾美は不思議そうに「用事があるのか?」などと聞いてくる―

「本当に・・・佑には参るね」
「は?なにが!?」
「・・・で。代わりの休暇は何時?」
「えっ?・・・26日だけど・・・」
「そっか・・・クリスマス明け、覚悟しててね?佑」
「・・・は?」
「まぁ、逃がしはしないけど・・・」

尾美はニッコリと笑う恋人の笑顔に薄ら寒いものを感じつつ、伸ばされた手に引き寄せられるまま目を閉じた・・・



クリスマスまであと10日―




2006.12.15 UP