藍色の夜風
橋爪はカレンダーを見て、小さく溜息をついた。
『今日で5日連続夜勤が続いている・・・』
つまり、恋人である、外警班長の西脇と5日間まともに会っていないという事で・・・
この時期は昼間でも、まともに話も出来ない程忙しく―すれ違いの日々が続いている。
『最後に話した内容は何だっただろうか…』と暫し考えなければならない程度にしか会話をしていなくて・・・
『そろそろ限界かな・・・』
コツリとカレンダーへ頭を寄せる。
窓の外は、すっかりと暗くなり―夜の気配が濃くなっていて・・・
『西脇さん・・・』
ボンヤリと最後に見た西脇の寝顔を思い出し、橋爪は不意に寂しさを感じる。
『おかしいな・・・毎日、顔は見ているのに。(寝顔だけど)挨拶だって交わしているのに。(本当に挨拶だけだけど)なのに・・・こんなにも西脇さんに会いたいです・・・』
恋人の腕の強さを思い出し、橋爪はギュッと自らを抱きしめる。
暫くの間、そうしていると・・・
-コンコン―
軽いノックの音がメディカルルームに響く―
「はい・・・」
「Dr・・・ここにいるの?」
聞こえてきた声は、先ほどまで焦がれていた人の声で。橋爪は直ぐには信じられず―
「西脇さん?」
「うん。今、Dr一人?」
シュッとドアを開け、入ってきたのは紛れもなく西脇で・・・
「・・・どうして・・・?もう、夜勤の時間では・・・?」
「そうだけど―Drに会いたくて」
「えっ・・・・」
「そろそろ限界かなって・・・Drは?」
「えっ・・・?」
「Dr紫乃は俺に会いたくなかった?」
「西脇さん・・・」
サラリと髪に触れる西脇の指先に、先ほどまでの不安も切なさも。全てが嘘のように消えていく・・・
橋爪は西脇の腕を取り、抱きついた。
「紫乃?」
「・・・会いたいに決まっているじゃないですか・・・」
「紫乃・・・」
「たった5日なのに・・・こんなにも貴方が恋しくて―」
「紫乃、俺もだよ・・・こんなにも紫乃に触れたかった―」
「西脇さん・・・」
橋爪の頬を流れる涙を唇で掬い―西脇はそっと口付ける。そして、ギュッと抱きしめて・・・
「紫乃・・・もう直ぐクリスマスだね・・・今年もミサ、一緒に行ってもいい?」
「はい・・・勿論です」
「よかった。これで、あと数日頑張れるよ・・・」
「・・・私もです」
ひっそりと微笑み合い、もう一度寄せられる唇に橋爪は瞳を閉じる。そして―
「西脇さん・・・クリスマスまでには診断、受けてくださいね?」
「紫乃・・・」
「そうでもしないと、会えないでしょう?」
ニコリと笑った橋爪は、何時ものDrの姿で・・・
『参った』と片手を上げた西脇は一言。
「紫乃には敵わないね」
そう言って、メディカルルームを後にした―
その後姿を見送って、橋爪は・・・
「貴方には敵いませんよ?」
橋爪の呟きは、夜風に乗って―消えていった・・・
クリスマスまであと12日―
2006.12.13 UP