- 夜 ひらくのは -



桜が綺麗だ ― と。 花見に行ってきた誰かがそう言っていた。
だから通常勤務が終わって、二人で少し遠くまで桜を観に来た


まだ、少し肌寒い中。
訪れるのは近所の人たち。という境内を ゆっくりと並んで歩く。

「穴場でしょ?」
「あぁ… 何処で知ったんだ?」
「この前西脇さんに聞いたんですよ。」
「…あいつは何でも知ってるな…」
石川はクスリ。と笑って 物知りな心友に感心する。

「ホントに… よく知ってますよね」
岩瀬もつられて笑う。

そこで会話が途切れたが―
どちらからともなく、手を絡め歩く。

「綺麗ですね…」
「ホントだな…」
「昼間見る桜と夜に見る桜。同じ桜でも違って見えませんか?」
「そうだな」

そこで岩瀬は石川をギュッと抱きしめた。

「こら…基寿…人目が…」
「大丈夫です。皆こっちまで来ませんよ」

そう言って更に強く抱きしめた…

いつの間にか境内の奥の方までやってきたようだ。
先ほどまでちらほらと居た人影はなく…
二人っきりで、桜の中に佇む。

「夜の桜は綺麗だけど…怖い なんだか魂まで奪われそうで…」
「…どうかしたのか?」
まるで幼子のように石川にしがみ付く岩瀬を抱き返し
石川は苦笑する。

「大丈夫だよ。何があっても離れないから」
「はい…」
ポンポンと背中を叩かれ…
岩瀬は苦笑した。

「…子供みたいですね…」
「本当に。大きな子供だな」
「…嫌いですか? こんな俺は…」
「…ううん。 大好き…」
石川はそっと岩瀬に口付けた… 瞼に。頬に。唇に。

「…こんな基寿も好きだ。俺にだけ見せる姿だから…」
「悠さん…」
暫し見詰め合って… ゆっくりと眼を閉じる。

今度は岩瀬からキスをした。
そして― ゆっくりと倒れこむ

「んん…基寿…こんな所で…」
「…ごめんなさい… 待てません」
「あぁ… そんな…」
石川の抵抗も封じ込め 岩瀬は手を進めていく…

「ぁ… ん…」
次第に翻弄されながらも、石川は声を潜める

「悠さん…声 聞かせて?」
「やぁ… だって…人が」
「ここまでは来ませんから…」
「いや…あぁ!」

一際強く攻め立てると我慢していた声が漏れ

一度、声を出してしまうと後はなし崩しになり…
石川は甘い声を出していた


  **  **  **  **


「悠さん… 綺麗です」
「あぁ…!な…に…」
「悠さんの体…桜色ですよ。花びらみたい…ココも…ココも」

そう言って岩瀬は自らが散らした桜色をたどっていく

「あ… やぁ…」

際どいところへの口付けは、更に石川を煽り立てる
もう少し。という所で 悪戯な唇は離れてゆき…

「あぁ…… もとひさ…」
「ダメですよ…まだ」
「…そんな…」

涙を浮かべた石川は更に扇情的だ。
そんな石川の誘いを眺め 薄く笑う

「もう限界ですか?」
「…や…イジワルしないで…」
「…どうして欲しいですか?」
「ん… そんな事……」
「ちゃんと言って?悠」
「……」
「言わないとずっとこのままですよ…」

そう言って岩瀬は石川の奥へと指を滑らし
くちゅくちゅと淫らな音を立てて出入りする指が弱いところを掠める…

「あぁ!…」
一際、高い声を出して石川の体が仰け反ると
岩瀬が前をギュッと掴んだ。

「やぁ…はなして…」
「いけませんよ…?まだ言ってないです」
「いや…ぁ…」
「悠さん…言って?俺が欲しいって…」
「あ…基寿が欲しい…」
「…どこに?」
「え…」
「ちゃんと答えて…」
「…ここに…もとひさが…ほしっ」
「悠さん!」

石川が言い終わらないうちに岩瀬が体を進める
突然質量の違うものが入ってきた石川の体は悲鳴を上げる

「あぁぁぁ…」
「悠さん…力抜いて… くっ」

きつく締め上げられて、岩瀬も苦しそうだ…
ゆるゆると石川の前に指を絡め 岩瀬は石川の快楽を誘う

次第に痛みだけではなくなった石川の腰が誘うように揺れ始め…
岩瀬自身を飲み込んでゆく

「あ…あ… ん…もとひさ…」
「はぁっ… くっ… はるか…」

二人はお互いの熱を感じ… 更に深い快楽へと落ちてゆく

「あ……もっ…」
「はるか… ん…」

お互い限界まで上り詰めて… 

「あぁぁぁ…」
「はるか…」

石川が果てるのと同時に最奥に岩瀬の快楽の証が打たれた


  **  **  **  **


帰りの車の中。
不機嫌な石川と。嬉しくもそれを全面に出せない岩瀬…
二人の微妙な空気は部屋に戻るまで変わらなかった。

未だ拗ねている石川を何とか説き伏せ
岩瀬は一緒にお風呂に入ることが出来た。

湯船の中で些か冷えた体を温め…

「…そう言えば何であんなに怖がったんだ?」
石川が先ほどから疑問に思っていたことを口にする。

「え…っと… 理由を聞かれても困るんですが…」
岩瀬は不意打ちの質問にたどたどしく答える。

「笑わないで下さいね…」
「あぁ」
「さっき、桜を見ていた悠さんが消えてしまいそうだったから…」
「不安になった…か?」
「はい…」
「馬鹿だな…俺がお前から離れる訳がないだろう…」
「はい…」
「もう外は勘弁な?」
「はい…ごめんなさい…」

石川は岩瀬を抱きしめ… キスをした。

「俺はここに居る。絶対だ」
「はい。俺も貴方のそばを離れません。絶対に」

二人だけの誓いは永遠に。
もう二度と不安をひらかせない様に…

                           - 了 -


アトガキ。という名の言い訳トーク

…花見…をするはずだったのが… 蓋を開けるとこうなっていました(爆)
いえ… 弱い岩瀬が書きたかったのではなく。
不安に駆られる岩瀬が見たかったのでもなく。
花びら→キスマーク?という安易な発想から出来たのです(笑)
あれ?おかしいな… もっとこう… 明るい話のはずだったのに…
題はひらくもの。で… 花。心。体。と掛けてみました(笑)
まぁ。ヌルイですが一応裏仕様で…(ですよね?←誰に聞いているのか…)
書き逃げダッシュで。(逃)

06.04.03