キミがキミで居るために
僕が僕で在るために
10万打御礼リクエスト大会リクエスト作品
ともっち様へ。
『ハルカ、今夜こそはどうだい?とても雰囲気のいいバーを見つけたんだ。』
廊下の角を曲がったところで、丁度、そんな会話が聞こえてきて、
西脇は微かに痛むこめかみを指で強く押さえた。
西脇と石川が揃ってロスDG研修に就いてから3週間。
毎日毎日目にする光景に…
そして、その始末が自分に回ってくる不条理に。
西脇は、今日一日で何度目か解らない、諦めの溜息を吐き出した。
日本のDGで、将来を嘱望されている”ハルカ・イシカワ”という男の、
抜きん出た容姿と隊員としての能力は、研修初日から、ロスDG内でも高く評価され、
石川は、以降、彼と身も心も親しくなりたい輩に、昼夜問わず誘いを掛けられるようになってしまった。
研修カリキュラムが石川と異なる西脇は、
”狼の群れの中の羊”を四六時中監視できるわけも無かったが、
それでも、休憩中や、オフなどは出来るだけ石川の傍を離れぬよう気を使ってきた。
それでも、鉄壁の西脇防護壁を掻い潜って、石川に誘いをかける男の一人が、
今、目前で石川を壁際に押しやり、さわやか(に装っている)な笑顔を全開にして誘いを掛けている
『悪いが、そろそろ帰国の準備をしなければならないんだ。』
いつものように困ったような…それでも残念そうな、曖昧な微苦笑を浮かべながら、
石川が断りを入れると。
『だからさ!無事研修を終了した打ち上げといこうじゃないか?』
強引な男は、石川の手を取って本格的に身を乗り出し始めた。
「石川っ!ああ、此処に居たのか。」
西脇は偶然を装い悠然と二人の傍へと歩み寄る。
『悪いがリック、今夜彼は俺とJDGに提出するレポートを作成する予定なんだ。』
でまかせではないが、たったいま思いついた言葉を並べて、石川へ助け舟をだしてやると、
誘いを掛けてきた男は、両手を開き満面の笑みを、今度は西脇に向けた。
『ああ、だったらなるべく早くに切り上げよう。キミも来るといいよ。タツミ。
俺の非番は今日だけなんだ。』
リックという男は、良くも悪くも唯我独尊で、
決して悪い人間ではないのだが、強引すぎるのと、こうして他人の意見に耳を貸さないところが、”珠に瑕”な男だった。
■■
自分はバイセクシャルであり、たくさんの恋人を持つと公言して憚らない男(リック)のセンスは、非常に高く、
彼の洗練された審美眼に適ったバーは、とてもセンスがよく、また、味も雰囲気も最上級の店だった。
『…じゃあ、少しだけ』
と、断り切れずに誘いにのった石川は、既に5杯目のカクテルに口をつけている。
最初は警戒心を露にしていた西脇も、徐々に店の雰囲気に酔ってきたのか、
どこか楽しそうだ。
リックの巧みな話術は二人をリラックスさせ、気づくと西脇もボトル1本近くの酒を喉に流し込んでいた―。
『ちょっと、失礼。』
と断って、席を立った石川を上機嫌で見送った西脇は、
この時、彼にしては大変珍しいことに、重要なコトを失念していた。
『おっと、俺も飲みすぎたかな?』
リックが立ち上がり、石川の後を追う様に、レストルームへと向かう。
その後姿を、グラスを傾けながら見送った西脇は、数分後、我に返り、
舌打ちをして慌てて席を立った。
そう、彼は失念していたのだ。
彼の心友、石川悠の酒癖を―。
小さなスタンドテーブルを避けながら、半ば駆けるように二人が去っていった扉へ向かう。
万一、リックが石川に凶行な手段に出たとしても、
石川の体術なら心配はいらない、と思う。
現に、自分が手助けできなかった、幾つかの”事件”も、石川は一人でちゃんと切り抜けてきた。
但し、それは「素面」のときであったのだ。
訓練校時代に目の当たりにした石川の「酒癖」。
それが、今の西脇の脳裏を支配している。
―間に合ってくれ……。
祈りながら、レストルームの扉を開けた。
その時―。
「ん……ふっ…」
押し殺したような吐息が漏れ聞こえた。
レストルームの一番奥の個室―
扉も閉めぬまま、彼らは口付けあっていた。
『無粋ですまないが、リック。彼はJDGの幹部候補に名が挙がっている人物だ。
火遊びのつもりなら止めておいた方が身の為だ。』
くったりと脱力し、半ば意識を飛ばしているらしい石川を腕に抱いて、
リックは首だけを、洗面台に背を預けて胡乱な視線を送ってきている西脇に向けて微笑った。
『オイオイ、”コレ”はハルカの方から誘ってきたんだぜ。
―それに、ヒトのプライベートを詮索するのは日本人の悪い習性だと俺は思うよ。』
『今回のことは、コイツも相当酔っていたみたいだから、”両成敗”が妥当だろうな。』
「リョーセーバイ?」
『”It takes two to tango"(※)
…次に逢うときが楽しみだよ。―リック。』
(脚注:(※)It takes two to tango=「タンゴを踊るには二人必要だ」「双方に責任がある」=「喧嘩両成敗」)
■■
滞在している官舎に戻ると、西脇は先ず、石川に冷たい水を与えた。
メトロと徒歩で帰官した道のりで、漸く酔いもほんの少し醒めかけてきた石川は、
ベッドに腰を下した自分を見下ろす同期生が、酷く怒っているように思えて、首を傾げた。
「―何か、怒ってないか?お前…」
「心当たりがあるのか?」
「―……全く。」
日頃無表情な男が、酷薄な笑みを浮かべる。
「やっぱりな。お前、酔うと記憶飛ぶもんな。」
「―俺、また何か…?」
静かに怒気を振りまく男に、恐る恐る尋ねると、酷薄な笑みが近づいて、石川の眼前でストップする。
刹那、石川の視界が大きく変わった。
ベッドに腰掛けていたはずの石川は、西脇に肩を突かれ、そのまま仰向けに倒れこんだのだ。
「―何?」
倒れた身体の上に乗り上げられても未だ、キョトンとした表情の石川を見下ろして、
西脇は深く溜息を吐き出した。
「お前には遠まわしに言ってもダメなようだから…。」
徐に西脇に触れられた箇所に強い刺激が走り、石川は戦いた。
「ちょっ…西脇っ何…っ!?」
西脇の掌は、石川の股間に押し当てられていて、確かな意志を持って柔らかな場所を揉み解している。
「や…ちょ…ぁ…っ…」
訓練校で拳を併せて以来、親友だと思っていた男の凶行に、石川は目を瞠った。
何故―?
どうして―?
そんな動揺とは裏腹に、確実かつ強引に熱を高められていく身体。
抗っても、きつく抑え込まれ、急所を手の内に取られてしまっていては、
力任せに彼を押しのけることも出来ない。
「にしわ…ぁ…うっ…」
痛いほどに揉みこまれていた其処は、とうとう存在を露にして、ズボンを押し上げている。
「―感じてるのか?」
問われて。
石川は、混乱と、その中に混じる悔しさに目尻を濡らした。
「そんな顔、するな―。だから、危険なんだよ。お前は…」
ジッパーを下げ、石川の昂ぶりを直に掌に包んだ男の言葉の真意を理解できぬまま、
石川は、軽い絶頂に押し上げられた。
石川が息を整え終わるのを待っている間、
西脇は己の首に巻いているネクタイを片手で器用に外す。
絶頂の衝撃に視界を閉ざして堪えた直後、石川が目を開いたときには、
西脇は自分で解いたタイで、石川の両手首を拘束していた。
「―な…に…ヤメ…」
抗議の言葉は、またも途中で途切れる。
何時の間に割り開かれたシャツの中に滑り込んだ西脇の指先は、
普段他人に触れさせることなどない、胸の頂きを捉えていた。
「ヤ…ヤぁ…あ…あっ…んんっ!」
石川は、其処への刺激は初めてで、唇から零れる喘ぎを止めることができない。
それでも必死に唇を噛みしめて、声を殺そうとする石川の姿に、西脇の理性も飛びそうになる。
―全く。「魔性」とはよく言ったものだ。
同期の褐色の肌を持つ男が、石川をそう称していたのを、西脇は苦い気持ちで思い出していた。
殺気や犯罪に対する危険への察知能力は高い癖に、
他人から向けられる好意や、その中に潜む下心などに疎い親友を、少しばかり怖がらせて、
その類の危機管理を促そうと思っただけだったのに。
石川の、高揚した肌の色や、頬にまとわりつく柔らかな髪や、誘うように揺れる腰に、何時の間にやら魅入られてしまっている自分に、
寧ろ西脇自身が危険を感じ始めていた―。
一度、精を放った石川自身は、胸への愛撫でまた力を盛り返し、目尻から流れる涙のように、快感の証を零し続けていた。
それを塗りこめるようにスライドさせていた掌を、ふと、まろい臀部へと差込み、まだ固いままの蕾に指先を触れさせる。
指先に纏わりついた愛液の助けを借りて、其処に一本、指を進入させかけた直後、
我に返ったのは西脇の方だった。
既に意識と理性の半分を飛ばしてしまっている石川の上から、西脇はそっと退いた。
「……ん…西…?」
愛撫の手が離れて、石川の意識が覚醒する。
直後に、猛烈な羞恥と怒りが石川を襲った。
「お…お…お前っ…今、何を―っっ!!」
最後までする気など毛頭無かったのだが、途中、理性を飛ばしそうになった自分を心の中で諌めて、
西脇は石川へと向き直った。
「”こういう事”になりうるから、酒を飲むときは十分気をつけたほうがいい、お前は。」
赤い目で睨み上げてくる親友の顔を一瞥すると、
椅子に無造作に掛けていた自分のジャケットを片手に取り、ベッドの上で呆然としている親友を残して部屋を出た。
薄暗い官舎の喫煙所で、愛飲の煙草に火を点ける。
いつもより苦く感じる味が、口内に広がった。
「こんな役は、クロウの方が似合ってたかもな。」
西脇という男には珍しく、自分のした行為に後悔を感じていた。
親友を諌めるためとはいえ…組み敷いてあまつ、一瞬でも情欲を抱いてしまった、とは…。
短くなった煙草を灰皿に落とし、また、新しい一本に火を点す。
封を切ったばかりのこの煙草も、今夜中には空になってしまうかもしれない―。
紫煙が闇の中に溶けていく様を、西脇はただ見つめていた…。
■■
翌朝、食堂へ向かう途中の道すがら、
同じ研修チームの同僚に声を掛けられる。
『タツミ、知ってるかい?リックがどうやら”年貢を納めた”ようだぜ?』
『へぇ…相手は誰?』
『それがさ、SP養成チームのガストン教官だって。』
『あのマッチョ?』
『リックはバイだとは聞いていたけれども、まさか掘られるのが趣味だとはおもってなかったよ。』
同僚の、早朝には不釣合いな下ネタに苦笑を返して、守備は上々だな、と西脇は内心ほくそ笑んだ。
昨晩ガストン教官をたきつけてリックの私室に送り込んだのは、自分なのだから。
『噂をすれば…ホラ』
同僚が指し示す顎先を見やれば、其処には、たった一晩でやつれ果ててしまったリックと、
大層嬉しそうに彼の腰に手を廻しているガストン教官。
通りすがりに、ガストン教官に目礼した西脇は、
リックの耳元で囁いた。
「I wish your happiness.」
青褪めたリックは、ロスDG一の巨漢に腰を引かれながら、肩をがっくり落とし去っていった…。
その後、訪れた食堂で、ベーグルサンドを片手に同僚達と談笑している親友の姿を見止め、
西脇は、らしくもなく一瞬怯んだ。
同じ席に付こうか否か、逡巡している間に、自分に気づいたらしい石川がぱっと手を上げて微笑んでいる。
―??
西脇は妙な胸騒ぎを覚えた。
「―よう。」
「おはよう。」
挨拶を交わし、当然のように勧められた、石川の席の隣に腰を下す。
石川の出方を伺っていると、
「夕べは何処に行ってたんだ?」
などと質問され、面食らった。
「―お前…もしかして覚えてないのか?」
「夕べのことだろ。俺とリックとお前で、飲みに行った。俺は久しぶりに飲みすぎて、途中で気分が悪くなって…
アレ?官舎のベッドに寝かせてくれたの、お前だろ?服まで脱がせてくれて…。
でも、起きたらお前居ないし。俺が寝てる間に、また外出でもしたんじゃないかと思っ…」
「ハァァ……」
西脇の深く大きな溜息が、石川の言葉を遮る。
「な、何?」
「―いや。」
複雑な面持ちで。
西脇は、不安げに問い返してくる石川に温く微笑った。
■■
数年前のあの夜、一度だけその肌に触れた指先を見つめる。
自分の記憶からも封印してしまっていたあの晩の記憶が蘇ってしまったのは、
今夜彼があの時と同じシャツを着ているからだろうか。
鮮明に思い出してしまった記憶を振り切るかのように、
隣に座り浅い眠りに落ちてしまった恋人の頭を自分の肩に凭れさせる。
「この騒ぎの中、よく眠れますね。よっぽど疲れてるんでしょうね。ドクター。」
肩の上で安らかな寝息を立てている恋人の顔を覗き込んできた岩瀬を、追い払うように西脇が前方を指差した。
「それより、そろそろヤバイぞ、あいつ。」
岩瀬が不思議そうに、西脇の指差した方向を辿っていくと其処には、
半裸のクロウに口付けを迫っている石川の姿―。
「わぁぁあああ!悠さんっ!!」
岩瀬の怒号が轟き、店内が一時騒然となったものの、
気の置けない友人達は皆、そんな二人のいつものやり取りを生温い笑みと共に見守っている。
自分もその中の一人。
今、自分の隣には、自分の肩を必要としている最愛の恋人が居るように、
彼もまた、自分ではない、彼と対となる伴侶と巡りあっていて。
あの時の、体を張った忠告は無駄になってしまったようだが、彼の全てを守ってくれる人間が常に傍らに居るのだから、
自分はとうに、”お役目御免”なのだろう。
西脇は、微かな寂しさを感じながら、それでも微笑ましく辺りを騒がせている件の二人の姿を視界の端に流して、
自分の肩で寝息を立てている恋人の髪を指先で梳いたのだった。
END
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【あぷりこっとおれんじ】の響谷らん様から奪ってきました(笑)
らん様の所では表でUPされていたのですが… 裏に持ってきちゃいました<笑
らん様の処の-10万打お礼企画-でリクをさせていただきました
リクの内容は『西悠で。悠さんに振り回される西やん』でした☆
…基悠サイト様にイヤンなリクを… しかも『エロで』とお願いを…
ですが!らん様はこんなにも素敵なお話に!!
ホント、その節はご迷惑を!!
本当に有り難うございます(T-T)
06.02.07