「でも、何事もなく無事に終了して、よかったですね」
「あぁ、本当にな」
部屋へと帰り、ゆっくりと寛ぎながら話しているのは、今日の会談の事だ―
石川は岩瀬へともたれかかり、ボンヤリとTVを見ていた。
突然決まった王太子の訪問にすっかりと神経をすり減らしてしまい、今は軽く放心状態の石川の髪を梳きながら、岩瀬は微笑んで―
「悠さん・・・疲れましたね」
「・・・ん・・・」
「明日は休みですけど・・・このまま寝てしまいますか?」
石川は髪を梳かれる感覚に、いつの間にか眼を閉じている、そして帰ってくる返事も半分夢の中だ。
「悠さん・・・おやすみなさい」
石川の身体をそっと横たえ、岩瀬は形の良い額にキスを―そして唇へと落とし、部屋の明かりを消した。
+ + +
冬の空も明け切らない早朝―
石川と岩瀬は無線からの呼び出しで眼を覚ました。
「・・・なんだ・・・?」
「悠さんのですね・・・」
二人は無意識に伸ばした無線を手に取り、回線を開けた。
「・・・石川だ」
「朝早くにすみません、野田です」
意外な相手からの呼び出しに、石川と岩瀬は視線を交わす。そして―
「野田、何かあったのか?」
「はい、先ほど委員会から連絡がありまして・・・」
「委員会から?」
「はい、30分後に宮沢さんから連絡が入ります」
「宮沢さんが?」
「何の用事でしょうか?」
「それが・・・どうやらE国の王太子から隊長へと要請があるらしく・・・」
「俺に・・・!?」
「はい、詳しい事は宮沢さんから―という事になっています。」
「解った、直ぐに行く」
「お休みのところすみません・・・」
「いや、大丈夫だ・・・5分で中央へ行く」
「はい」
-ピッ-
野田からの無線が閉じられ、部屋の中にはなんともいえない空気が流れる・・・
「一体、何の用事でしょうね・・・?」
「さぁな・・・宮沢さんから連絡がくれば解るさ。基寿、行くぞ」
「・・・折角の休日なのに・・・」
「仕方ないだろう?」
「でも、悠さん!体調あまりよくないでしょう?」
「・・・気づいてたのか?」
「勿論ですよ!だから、今日はゆっくり休んでもらおうと思っていたのに・・・」
「ありがとう、基寿・・・俺は大丈夫だから」
「悠さん・・・」
「さぁ、野田が心配するから早く行かないと」
「・・・はい」
二人は制服へと着替え、管理室へと向かった―
+ + +
「隊長、委員会から連絡です」
「了解、繋げ」
「了解」
ブツッいう音と共に中央のモニターに映し出された宮沢は、何時ものように厳しい顔つきでいた。
「お待たせしました」
「・・・直ぐに用件に入る」
「はい」
石川と篠井が並んで立ち、それぞれの後ろへSPがつく。
それを一瞥して宮沢は淡々と話し出す―
「昨夜・・・いや今朝か、E国王太子から連絡があり、議事堂及び警備隊の視察をしたいと―」
「視察?」
「あぁ、どうやら昨日の総理との会談で議事堂と警備隊に関心を寄せられたようだ」
「・・・・・・」
石川達の無言を流し、宮沢は更に―
「議事堂の視察だが、本日、午後よりの開始。そして王太子の案内役は石川に決定している」
「・・・私が・・・?」
「王太子直々の要望だ。そして王太子を案内している間は篠井が隊の最高責任者となる」
「え!?」
思わず声を上げた岩瀬にチラリと視線を向け、宮沢は・・・
「なにかあるのか?岩瀬」
「・・・いえ・・・」
「これは既に決定されていることだ、変更は一切利かない。以上だ」
用事は済んだ。とばかりに回線を切り、宮沢の姿はモニターから消えた。
あまりの内容に、中央管理室は静まり返る―が、石川は一つ息を吐き・・・
「・・・班長達に連絡を、緊急会議を始める」
「了解」
「篠井・・・頼んだぞ」
「隊長・・・了解しました」
篠井が頷くのを見て、石川が微笑む。そこでやっと管理室の空気が元に戻った・・・
それを見て、篠井が呟く―
「流石ですね・・・隊長」
先ほどまでの、張り詰めたような空気を微笑み一つで戻す―その石川の姿に感心していた・・・
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