1.Anfang vom Ende【終わりの始まり】
「…で、以上だ。何か質問は?」
「いえ…。ありません」
「では。よろしく頼む。くれぐれも失礼のないように」
「はい。了解しました」
-ブツッ-
そこで委員会からの交信が切れる。
それと同時に、密かに溜息をついているものが数名―
それに苦笑で答えた石川は…
「今から班長会議を始める。至急、班長・副班長の呼び出しを。」
「はい。」
「班長が休暇の場合は、副班長だけで大丈夫だ。」
「はい。」
緊急の会議を決定し、クルリと後ろを振り返った。
「岩瀬…お前な…」
「…え?…」
「……最近のお前は顔に出すぎだ。少し注意しろ…」
「え…っと…その…」
岩瀬は石川が言っていることがサッパリわかっていない様子で…
「解らなければ、いい…」
「え?隊長…?」
そんな岩瀬に説明する気はない様子で、石川が歩き出そうとすると―
「隊長…甘やかせてはいけませんよ…。」
「西脇!」
「西脇さん!!」
「隊長…。躾はしっかりとしてください…」
「躾って…」
「西脇さん!!それって…」
「…岩瀬、お前、委員会から連絡があるたびに、睨みつけるのはヤメロ。」
「え!?そんな事してましたか?」
「岩瀬…」
「…無自覚か…」
そんな岩瀬の反応に、石川は苦笑し。西脇は溜息をつく。
「え?隊長…!?」
岩瀬は無自覚で宮沢を睨みつけていたようだ…
そんな岩瀬に、困った顔で。
「岩瀬…宮沢さんだって、警備隊を支えてくれている内の一人だぞ…?だから、無意識に威嚇するな…」
「隊長…」
「まー。気持ちは解るがな…。」
「西脇!!」
「西脇さん…」
二人からそんな事を言われ、困り果てる岩瀬であった…
「さ。会議が始まるぞ?」
「行きますか」
「あ!待ってくださいよぅ!!」
三人は連れ立って、管理室を出た。
+ + +
「先ほど、委員会から連絡があった。一週間後、E国の王太子が来日される事になり、総理との会談が議事堂で開かれることになった」
「・・・E国って、最近注目を浴びているE国ですよね・・・?」
「そうだ。野田、すまないが説明を・・・」
「はい。・・・ 皆、モニターを」
そう言って野田は各自の前にあるモニターに映像を映し出す。
「E国はロシアとヨーロッパの間の小国の一つなのですが。現在『世界一のバイオテクノロジー技術』として注目されてる国です」
「世界一のバイオテクノロジー・・・?」
岩瀬の疑問に宇崎が答える
「世界一と言われる所以は・・・E国の研究所だな。そこは本当に『世界一』の技術者達が揃っていると云われているんだよ」
「・・・なんで、その国の“王太子”が日本に?」
「技術開発に資金を出しているのが日本企業だからじゃない?」
「・・・・でも、なんで総理と会談を?」
「岩瀬・・・少しは新聞とか読めよ?」
「うっ・・・はい・・・」
石川は宇崎からの忠告に肩をすくめる岩瀬を微笑ましく見て―
「日本にとってE国は技術提携している重要な国の一つだ」
「えっと・・・技術を共有する・・・?」
「そうだな。そして“利害の一致”もある・・・」
「ああ。だから企業も出資しているんだ。だからE国の次代王族が来日するとしたら、テロ活動も活発になると思われる・・・」
「そうですね・・・」
しんとした会議室に、石川の凛とした声が響く。
「兎に角。一週間後に王太子が来られる。それに伴い、警備レベル4へ移行。各班シフト調節を明日までに提出。・・・以上で解散」
「「はい」」
皆が会議室を出て行く中。西脇がモニターに映し出される“E国王太子”を見ている・・・
「西脇・・・どうかしたのか?」
「隊長・・・E国ですが・・・」
「?」
「・・・いえ・・・確証がもてたら話します」
西脇の『秘密主義』にも慣れたもので。 石川は西脇の肩を叩き―
「解った・・・頼むよ」
そういって会議室を後にした。
残された西脇は、未だモニターを見て―
「きな臭いことにならないといいが・・・」
一人。ポツリと呟いた―
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