【PRECIOUS ONE】
いつもは、ただ過ぎて行く毎日と、何ら変わることのない日と思っていた。
だけど、石川にとって、毎年その日は特別な日となった。
「今日はまた……やけにご機嫌じゃない?」
「って言うか、笑顔振りまき過ぎ………」
今日は、石川の誕生日で日付が変わる瞬間からすれ違う隊員達に、「おめでとうございます」と言われ続けている。
それに満面の笑顔で答え、隊員を知らず知らずに、しばらく再起不能状態にして歩いている。
さしずめ、歩く凶器と化している。そして、隊員を代表して、宇崎から両手いっぱいの花束を貰って、その花を抱いて歩く石川とすれ違った隊員は、しばらく石化して動けない。
「おい、早く連れ帰れ」
西脇に後から足蹴にされ、岩瀬は情けない声を上げる。
「痛っ!!西脇さん、蹴らないで下さい」
「夜勤明けだろう?隊員が使い物にならなくなるから、早く連れ帰れと言っている」
「分かってますって!!」
遠慮無しに後から叩かれ、岩瀬はせかすように石川の傍に寄った。
「隊長、それでは上がりましょうか?」
「ああ、そうだな」
そう言って、花を抱えた石川は嬉しそうに花束を見て微笑んだ。
そして、その笑顔を見ると、岩瀬は複雑に目を伏せた。
* * *
寮に戻るなり、岩瀬は思い切り石川を抱き締め、情けない声を出した。
「もう、誰構わず微笑むのは禁止です!!」
「は?」
「もう、みんな悠さん見て固まるし、俺は気が気じゃないし……」
「何が?」
「今日はどうしたんですか?」
「いや……///どうもしないぞ!!それより、夜勤明けで疲れたろう?風呂に入って寝るぞ!!」
石川は何故か少しだけ頬を染め、岩瀬の腕を素早くすり抜けてバスルームへと向かった。
そして、それを追いかけた岩瀬は、断られるのを承知で聞いてみた。
「悠さん……一緒に入ってもいいですか?」
「え?」
そう言って石川はバスルームの先で固まっているらしく、その先の返事は無い。
岩瀬はもちろん石川が断ってくることが分かっていたので、すぐにバスルームから出て行こうと、踵を返したところで声がした。
「いいぞ!!入って来い///」
「いいんですか?」
と、思わず聞き返してしまった岩瀬だった。
しかし、夜勤明けで疲れているだろう石川を気遣って、岩瀬は理性を総動員して、さっさと風呂を済ませ、ベッドに入った。そして、今朝の出来事を聞いてみる。
「今日、悠さんご機嫌だったじゃないですか?それは何で?」
「え?」
「特に宇崎さんから花束を貰ってから……」
「ああ……あれは……///」
「何か言われました?」
「いや、ただおめでとうと……それだけだけど……///」
「本当に?」
岩瀬がじーっと見つめると、恥ずかしそうに毛布に潜ってしまった石川だった。
が、もちろん、すぐに潜ってしまった石川に、毛布を捲ってしまって殴られてしまったけれど。
「悠さん!!」
岩瀬に根負けしたのか、それでも恥ずかしくて毛布に埋まったままの石川は、ボソボソと朝会った事を話し出す。
* * *
「おめでとうvv」
花束を抱えた宇崎に、朝会ってすぐに言われた。
「え?」
両手いっぱいの花束を貰って驚く。
「石川〜〜〜vv今日誕生日じゃん!!」
「あ、忘れてた!!……今日の0時になった瞬間に岩瀬におめでとうと、言われた気がする。仕事中だったから、すぐに違う事し始めて……」
「……覚えていろよ!!そんな事!!仮にも恋人からの言葉なのに……」
「や…それは……」
「昔からそんなところは、相変わらずだよな……自分のことに無頓着だ……でも、以前に比べると凄く変わったよな」
「俺が?」
「もしかして……自覚してない?」
変わったといわれても、自分ではどう変わったかなんか分からない。
「最近……いや、岩瀬が来てからかな……笑顔が多くなったと思う」
「そうか?」
「仕事以外で考える事って、岩瀬の事ばかり?」
「え?///」
「石川、自覚ないと思うけど、岩瀬のこと考えてるな〜って顔してる時って、どんな顔してると思う?」
「そんなの分かるわけないだろう?///―――って言うか、何で岩瀬のこと考えてると思うんだ?」
宇崎は、本当に自覚がないんだと改めて思う。
「気付いてない?」
「??」
「岩瀬の事じーっと見てること多いよ。自然と目が追ってる。岩瀬の事、注意できないねvv」
そう、耳打ちするとボッと顔を赤くした石川が、その事を肯定しているみたいで、宇崎は柔らかく微笑んだ。
「岩瀬を見てる顔はね、それはそれは優しい顔してるよ」
「……///」
「そんな顔させてくれる人が現れたんだから、大切にしないとダメだよ」
そう言って宇崎は、石川に向かって優しく微笑みかけた。
* * *
「―――って……///」
見上げると、段々嬉しそうな顔をしてくるから何だか悔しくなる。
「わー、何だか嬉しい」
岩瀬は石川をぎゅ―っと抱き締める。その抱き締める腕の強さが、より一層喜びを表しているようで、何だか邪険に出来ない。
「今日も、見てくれました?」
「うるさい」
「じゃ、俺の事考えてくれてます?」
「うるさい///」
石川は顔を真っ赤にして、今日も岩瀬の事を考えていてくれたんだと思った。
そう思うと、もう、ただただ、誕生日をタイムリーに祝えないのが、悔しくてたまらない。
「今日は特別な日なのに夜勤で、ゆっくり誕生日を祝う事も出来なくて……何だか……悔しい」
「前から決めてた休みを返上したのは俺だからな……お前が悔やむ事ないだろう?」
「それでも、嫌なんです。だって、今日は悠さんが生まれて来てくれて、ありがとうと感謝する日でしょう?」
「生まれて来てくれてありがとう?」
「そうですよ」
こんなにも大切に思ってくれているなんて。
何故だか分からないけれど、泣きそうなくらいに嬉しくなる。
石川にとって、誕生日なんてただの記念日で、毎日の日々の中でただ過ぎていく日だった。
特別だ何て思うことも無かった。
だけど、岩瀬がこうして、大切にしてくれる日だから、石川にとっても特別な日に変わる。
「だって、悠さんが生まれて来なかったら、俺達こうして出逢っていなかったかもしれません」
人生において、あまたの出逢いの中で、二人出逢ってしまった。
色んな選択をして、色んな道を選んでも、出逢う運命。
「悠さんは俺にとって一番大切で、たったひとつの貴重な存在なんですよ」
柔らかく抱き締められ、石川も同じだと強く抱き締め返す。
「愛してます、悠さん……」
「俺も……」
そう言って施されたキスは、甘く切なく石川の心を震わす。
「だから、いつでも傍に居てくださいね」
「うん」
その腕の中に顔を埋めて、石川は柔らかく微笑んだ。
柔らかい陽だまりの中で眠りに落ちた二人は、目覚めた時出かける約束をした。
二人だけで、誕生日を祝うために。
特別な人の、大切な誕生日。来年も再来年も、ずっと二人で祝うのだ。
ずっと二人で。
2007.4.25 UP